松下昇への接近

 旧 湾曲していく日常

正月の祝福芸としての「君が代」

http://d.hatena.ne.jp/noharra/20090414#p2の右翼語試験*1に、RESいただいた。(http://d.hatena.ne.jp/kuonkizuna/20090505

右翼語っていうか、ただ右翼の人が多用するだけで言葉自身が右翼というわけでもないと思いますが...

そのとおり。というかそもそも右翼というものが、戦後はどんな実体も持てなくなっているように思います。

http://homepage2.nifty.com/pole-pole/diary/past/2003_04.html#4/27
が、ここの説明を見れば自分の認識と少し食い違いもあるようですね、どうでしょう。

例えば、八紘一宇にはどこか「本来一つ」の意味があるでしょうか?
あと「皇祖」をアマテラスの一柱に特定するのもおかしいと思います。
弥栄イコール万歳*2というのも違和感を感じます。


まず皇祖についてはテキスト(教科書)はこれ。

 我が肇国(ちょうこく)は、皇祖天照大神(あまてらすおおみかみ)が神勅を皇孫瓊瓊杵ノ尊(ににぎのみこと)に授け給うて、豊葦原(とよあしはら)の瑞穂の国に降臨せしめ給うたときに存する。
「国体の本義」は、昭和12年に文部省から発行された教科書。
http://kuwappa.livedoor.biz/archives/51048568.html

といっても1937年はあまりに新しく、当然もっと遡れるがそれは今後に。

日蓮宗から新宗教団体国柱会を興した田中智學が1903年明治36年)、日蓮を中心にして「日本國はまさしく宇内を靈的に統一すべき天職を有す」という意味で、『日本書紀』巻第三神武天皇の条にある「掩八紘而爲宇」(八紘[2](あめのした)を掩(おお)ひて宇(いえ)と爲(なさ)む)から「八紘一宇」としたものである。
本来、「八紘」は「8つの方位」「天地を結ぶ8本の綱」を意味する語であり、これが転じて「世界」を意味する語となった。(wikipedia

八紘一宇1903年とあまりに新しい。ただ田中智學は思想史的に重要。*2
ここでは「日蓮を中心にして日本國が世界を靈的に統一する」という日蓮主義の色の濃い言葉と定義されている、のが意外である。創価学会もこのあたりの禁じられた深みをふくめた大東亜戦争総括をせずに政権党になってしまったのは、大変マズイのではないか。

「八紘一宇」は言葉は記紀神話に由来するにしても日本が主役となっての世界の思想的統一というのはまさに日蓮主義的な発想にほかならない。また「大東亜」の指導者としての日本という観念を提示したのも北一輝石原莞爾
http://blog.goo.ne.jp/tamapocho/e/eb88bfb7b00083c7c76ba2f4665e8f4c

いずれにしても、八紘一宇に「本来一つ」の意味はないようだ。

 平安後期成立の《新猿楽記》には「千秋万歳之酒(さか)ほがい_」とあり、鎌倉時代の語原辞書「名語記」には、「千秋万歳トテ、コノゴロ正月ニハ、散所ノ乞食法師ガ、仙人ノ装束ヲマナビテ、小松ヲ手にササゲテ推参シテ、様々ノ祝言ヲ言ヒツヅケテ、禄物(貰い物)ニアヅカルモ、コノ初子(ハツネ)ノ日ノイワイナリ」と記されている。また「古今著聞集」のいろは連歌に、「亥は今宵 明日は子の日とかぞえつつ うれしかるらん千秋万歳」、また、下って「臥雲日件」文安4年正月の条には「一種乞食。革歳ノ首。人家ニ至リ、祝言ヲ歌フ。世ニ之ヲ千秋万歳ト号ス 前後相逐ヒ来ル。各百銭ヲ与フ」とあって、この頃からすでにおろかな滑稽な要素が入っていたというのである。
http://www.thu.ac.jp/warai/popup/rensai22.html

「千秋万歳(せんずまんざい)」は、散所の乞食法師などが行う正月の祝福芸である。兵藤裕己氏の解説では「平安時代の呪師の後身ともいえる声聞師が、鎌倉時代には、田楽や能楽の翁にもかよう来訪神(まれびと)の陰陽道的表現ともいえる「仙人の装束」をして、正月に家々をまわって祝言の歌舞を」する、とあります。*3
11世紀の藤原明衡《新猿楽記》などは、宮廷文化としての平安文化ではなく地方にもひろがったダイナミックな中世文化の息吹を伝えているようです。国歌になった「君が代」や弥栄(いやさか)という言葉は、このような「正月の祝福芸」の精神を色濃く残しているそうしたものであると思わずにはいられません。明治以後の急ごしらえの国家主義軍国主義に利用されたとしてもその点だけを見るべきではないでしょう。


以上、三点について、いずれも、古事記、万葉などの時代の言語感覚からいうとかなりずれた意味、用法になっているのであろうと、思われます。

*1:というかコピペですが

*2:参考 http://park8.wakwak.com/~kasa/Religion/kokuchukai.html「田中智学の唱えた国家主義的思想は今では危険思想としてとらわれがちですが、当時はこのような思想がトレンドであり、特に右寄りな思想というわけではなかったようです。また、戦前から存在する日蓮宗系の宗教団体は何らかの形で田中智学の思想の影響を受けているといわれています。」

*3:p36「琵琶法師」isbn:9784004311843