松下昇への接近

 旧 湾曲していく日常

この絵は何でしょう?

これはある有名な漫画家のマンガの一コマだ。

マンガとは思えないくらい一面に暗く見にくい画像です。スキャンの条件が悪かったという要素もあるもののやはり作家の意図がそこにはあると思える。*1

昭和45年3人の元日本兵が南の島に旅立つ。バカンスを楽しむ為ではない。それでは何の為だろう。
彼らは数十年ぶりにばったり出会い、次のような会話をする。

「ちょうど石橋も会いたいいいよるでナ」
「石橋は戦死じゃなかったかナ」*2
「生きとんねがナ」
「「玉砕命令」はでとったらしいけどナ……」
「一度行ってみたいもんですなあ」
「われわれも話しとったんや」
「一ヵ月くらいかかるんですか」
「いや そんなにかからへん」
「まさか生きてもう一度行けるとは思はなんだな」
「ほんまになァ」
(略)*3

南の島に行ってみてもそこには何もない。ただ沢山の植物と「ボアーボアーボアー」という不気味な声が聞こえてくるばかりだ。

「一度死にかけたところはなぜか人を引きつける」
「そりゃ 霊が招くというやつだよ ……」
「よく 兵隊は戦争中の戦地を訪ねたがるナ」
「それは戦友の霊が呼ぶとしか考えられないナ」
*4

しかし、南の島に行ってみても美しい自然があるばかりだ。
ただよく見ると、

飯盒もちらばっているし
骨みたいなものもちらほらするナ
*5


というわけで冒頭の絵になる。そういう目で見ればもちろんこの絵は、草むらのなかに髑髏がはっきり書き込まれている。
ただ髑髏は泣きも叫びもせずただそこにあるだけだ。

*1:写真を補正して作っているのかもしれない

*2:本人を目の前にしているのに

*3:p132-133 『水木しげる伝・下』isbn:4063608387

*4:p134 同上

*5:p137 同上