松下昇への接近

 旧 湾曲していく日常

あらゆる差別に反対、は無理だろう

差別に反対して生きていきます。という人がいる。意味が分からない。女性差別、非常勤差別、学歴差別、出自や出身地による差別、私はどこからみても差別者だが、その人はそうではないのだろうか。語りえない、主題化しにくい差別、がまず問題だと思わない人が多いのだな。話が通じないはずだ。


「あらゆる差別に反対」ってスローガンは正しいのか。まったく間違っているとしか私には思えない。「現時点で政治化されているあらゆる差別に反対」と言い換えても、その「差別」という言葉が流通しうる社会を作りたいというだけであり、意味があるとは思えない。

9/22に呟いたのだが、もう一度書いてみる。


1、いま社会問題になっているのは「在特会」などの極端な排外主義者である。韓国人や中国人を根拠なくあざ笑い、日本人は日の丸の強制を積極的に受け入れるべきだとする。安部首相や橋下氏の思想がこれに非常に近い事も問題である。


2.それに対抗する運動として、例えば、9.22東京大行進*1 という企画があったようだ。
「個人を、集団を、そして社会を破壊するあらゆる差別への強い抗議の意思と、多様性を持つ社会のすばらしさをアピールするために、今度は私たちが新宿の街を行進しましょう!」
「個人を、集団を、そして社会を破壊するあらゆる差別」への批判という理論的前提があり、共に闘いましょう、ということになる。
まことにもっともであり賛同するしかないように思われる。


3.しかし、社会が「あらゆる差別」で出来ているものならば、「あらゆる差別」を否定することなどできるのだろうか。できないと思う。

4.これについて、次のようなパロディ文を作ってみた。

 子供生みたい人で、それが生物学的に可能な人は、好きにしたらいいよ。出産可能である事は特権だから行使するのは褒められた話じゃないけど、出産するには色々あるんでしょう事情が。

ある方の、結婚=入籍を祝うことへの批判的文章を、出産、に入れ替えてみたものだ。*2

社会的に承認された結婚制度というものが、差別的なものである、とする。であれば結婚しないことが正しいことになる。しかし、不合理である国家や企業社会のなかでその不合理を一旦受け入れてしか生きていくことはできないのではないか、現実には私たちは。間違った前提のなかで生きることは、前提が間違っている事を忘れようとすることだ。社会のなかで生きながらなお、その不可避であるところの忘却にあらがい、できれば闘いに一歩を踏み出すこと、それがなされるべきことだと思う。


5.実際、この運動は、「あらゆる差別に反対」を厳格に解釈しようとする厳格派と、パレードに多数を集めたいとする動員派、二派に分かれて内ゲバが激しくなった。*3 「あらゆる差別に反対」という前提が持っている理論的脆弱性が、必然的に内ゲバをもたらす、というのは私の解釈である。


6.「あらゆる差別に反対」なんて無理なスローガンがなぜ愛好されるのか。それは差別の問題を自分が差別を侵しているかどうかという自意識の問題に置き換えて考えてしまうからだ。そうすれば、自分の気付いた差別を止めていけば良いのだから、可能である。他人については、気付かせて、自覚させて止めさせる。止めない場合は糾弾することになる。


7.差別の問題は、存在の問題であり、意識化することが困難で語りえないまま時間が経つことが多い。それがむしろ本質であると思う。
女性差別、非常勤差別、学歴差別、出自や出身地による差別。非常勤差別というが、同じ仕事をしていないのだから賃金が違うのは当然だと言われる。実際には同等の仕事をして賃金だけ違う場合があっても、現在の制度化でそれを糾弾することは不可能だ。
差別反対派の人は、糾弾できない差別のことは実際には扱わないし、気が付かないふりをする。


8.「あらゆる差別に反対」ってスローガンは間違っているとまでは言えないだろう。しかしスローガンが正確に敵の弱点を突くべきものであるとすれば、適切なスローガンではないように思う。
「現時点で政治化されている差別に反対する」だけでなく、本来問題にされるべきすべての差別に取り組んでいくのだと。それは良いようにも思う。しかしどうも私には「差別」という言葉を特権化し、反差別の闘いを作っていくという戦略が有効であるとは思えない。反差別の闘いと言えば、自分が普遍的である立場を獲得できたように自分で思えるだけのことではないのか。原発問題で経済産業省の責任を追及することさえ出来なかった我々が何ができるのか。


9.「反差別」という大きな美しいスローガンと戯れることを禁欲しても、私たちにはできることがある。それについては次に書いていきたい。

*1:http://antiracism.jp/march_for_freedom

*2:@cmasakさんという方

*3:厳格派と動員派という言葉は仮に作ってみた。前者はヘイトスピーチに反対する会 http://livingtogether.blog91.fc2.com/ など。後者はhttp://antiracism.jp/ や野間易通@kdxn (レイシストをしばき隊)など。「内ゲバ」は2年ほど前からあるように思う。