いわゆる従軍慰安婦展についての西宮市長申し入れ
西宮市長 今村岳司様
西宮市議会議長様
西宮市教育委員長様
西宮市市民文化局長様
「検証・いわゆる従軍慰安婦展」(11月23〜24日)のための「西宮市民会館」使用許可の取り消しを求める緊急申し入れ書
日々、市民の基本的人権保障のためにご尽力いただき、ありがとうございます。
西宮市民憲章には、「西宮を 教育と文化のかおり高いまちにしましょう」「西宮を 心の通った福祉のまちにしましょう」と謳っています。そのような町になることを願っています。
西宮市人権教育・啓発に関する基本計画では「すべての人々の人権が尊重され、相互に共存しうる平和で豊かな人権尊重社会の早期実現」が目標とされ、西宮市外国人市民施策基本方針では「異なる文化や価値観を理解し、国籍を問わず、すべての人々の人権が尊重され、共に支え合って生きていくことができる社会の実現をめざす」とあります。
しかし、近年、このような取り組みや願いを否定するヘイトスピーチが全国各地でくりかえされています。とりわけ在日韓国・朝鮮人や日本軍「慰安婦」(従軍慰安婦)に対するヘイトスピーチは、人種差別や女性差別、そして人種的憎悪に満ちたもので、人間の尊厳を否定する侮辱的・脅迫的行動が繰り返されています。
ヘイトスピーチとは、「広義では、人種、民族、国籍、性などの属性を有するマイノリティーの集団もしくは個人に対し、この属性を理由とする差別的表現であり、その中核にある本質的な部分は、マイノリティーに対する『差別、敵意または暴力の扇動』(*2)、『差別のあらゆる扇動』(*3)であり、表現による暴力、攻撃、迫害である」とされています*1
したがって、ヘイトスピーチは、マイノリティーに属する人々の尊厳、人格権、平等権、平穏に生活する権利、そして表現の自由を奪うものであり、平等を前提に諸民族など多様な人々が友好、平和に共生する社会を壊すものです。また、国連自由権規約第20条第2項*2、人種差別撤廃条約第4条*3 などでは、ヘイトスピーチは違法とし、国際法上は厳しい規制を求めています。
そのため、本年7月24日国連自由権規約委員会は、日本のヘイトスピーチの現状に対し、「差別、敵意ある暴力の扇動となる人種的優越あるいは憎悪を唱える宣伝はすべて禁止すべきである」と刑事的規制を求める勧告を行い*4、「「慰安婦」問題についても、「被害者を侮辱あるいは事件を否定するすべての試みへの非難」のためあらゆる措置を取るべきと勧告しました*5。
このような国際的流れを受け止め、西宮市でも、住む人々が、共生、協力をし、文化、教育、福祉のまちづくりに邁進していかなければならないと考えています。
このような折、全く思いもよらない事態が起きました。表記のパネル展開催のため、西宮市は、主催者「凛風やまと・獅子の会」に西宮市民会館の使用を許可したというのです。
主催者が配布しているチラシ(添付資料1)*6 では、パネル展が、すでに行われた高槻市、次に西宮市で行おうとしていることが示されています。そこで、どのような展示なのか、私たちは実際に展示を見、あるいは写真を見ました。その内容は、明らかに、在日韓国・朝鮮人、日本軍「慰安婦」に対するヘイトスピーチを生み出し、人種差別、人種的憎悪を煽る内容でした。
つきましては、下記の点について、市の見解を明らかにしていただくとともに、表記展示に関しては、「西宮市民会館」の使用を取り消されるよう。申し入れる次第です。お忙しいと存じますが、10月27日(月)までに回答いただきますよう、お願いいたします。
記
1、ヘイトスピーチは、単なる政治的見解の表明ではなく、差別、人権侵害だと私たちは考えていますが、西宮市ではどのようにお考えでしょうか。
2、これまでの展示内容では韓国併合は朝鮮人が望んだとか、日本軍「慰安婦」は「売春婦」であるとかと歴史的事実と違うことを展示し、植民地、戦争被害者の尊厳を傷つけ、人権を踏みにじるものになっております。また、在日朝鮮人は犯罪者が多い、生活保護を受ける人が多いとか、朝鮮人を貶める展示がされ、ヘイトスピーチを生み出すものになっていますが、このような展示を行っていいと考えますか。
3、展示の中では、朝日新聞の「吉田証言」掲載についての謝罪問題から、いきなり日本軍「慰安婦」は「売春婦」であるかのように導き、「従軍慰安婦」はなかったかのような表現になり、朝日新聞攻撃をしていることについてどう考えますか。
今、「慰安婦」問題を報道した元朝日新聞記者に脅迫文が届き、ネット上では「国賊」「反日」などと憎悪をあおる言葉で個人攻撃が繰り返され、その矛先が家族にも向かっていると聞きます。そのようなことを助長するような展示内容について、どう思われますか。
4、安倍政権は、はっきりと「河野談話」を踏襲すると言っているのに、それを誹謗中傷する展示になっているのをどのように考えますか。
5、どのような、いきさつで、このような歴史を偽造し、人種差別を煽り、他人種を貶めるような展示会の会館使用許可に至ったのか、お答えください。
6、以上の申し入れにしたがって、市長、議長、教育委員長、市民文化局長および担当者との話し合いの場を設定して頂くようお願いします。
以上
人種差別撤廃条約第4条
あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約 第4条 締約国は、一の人種の優越性若しくは一の皮膚の色若しくは種族的出身の人の集団の優越性の思想若しくは理論に基づくあらゆる宣伝及び団体又は人種的憎悪及び人種差別(形態のいかんを問わない。)を正当化し若しくは助長することを企てるあらゆる宣伝及び団体を非難し、また、このような差別のあらゆる扇動又は行為を根絶することを目的とする迅速かつ積極的な措置をとることを約束する。このため、締約国は、世界人権宣言に具現された原則及び次条に明示的に定める権利に十分な考慮を払って、特に次のことを行う。
(a)人種的優越又は憎悪に基づく思想のあらゆる流布、人種差別の扇動、いかなる人種若しくは皮膚の色若しくは種族的出身を異にする人の集団に対するものであるかを問わずすべての暴力行為又はその行為の扇動及び人種主義に基づく活動に対する資金援助を含むいかなる援助の提供も、法律で処罰すべき犯罪であることを宣言すること。
(b)人種差別を助長し及び扇動する団体及び組織的宣伝活動その他のすべての宣伝活動を違法であるとして禁止するものとし、このような団体又は活動への参加が法律で処罰すべき犯罪であることを認めること。
(c)国又は地方の公の当局又は機関が人種差別を助長し又は扇動することを認めないこと。
(1965年の第20回国連総会で採択、1969年発効。日本は1995年。)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinshu/conv_j.html#1
第4条(a)及び(b)は、「人種的優越又は憎悪に基づくあらゆる思想の流布」、「人種差別の扇動」等につき、処罰立法措置をとることを義務づけるものです。
これらは、様々な場面における様々な態様の行為を含む非常に広い概念ですので、そのすべてを刑罰法規をもって規制することについては、憲法の保障する集会、結社、表現の自由等を不当に制約することにならないか、文明評論、政治評論等の正当な言論を不当に萎縮させることにならないか、また、これらの概念を刑罰法規の構成要件として用いることについては、刑罰の対象となる行為とそうでないものとの境界がはっきりせず、罪刑法定主義に反することにならないかなどについて極めて慎重に検討する必要があります。我が国では、現行法上、名誉毀損や侮辱等具体的な法益侵害又はその侵害の危険性のある行為は、処罰の対象になっていますが、この条約第4条の定める処罰立法義務を不足なく履行することは以上の諸点等に照らし、憲法上の問題を生じるおそれがあります。このため、我が国としては憲法と抵触しない限度において、第4条の義務を履行する旨留保を付することにしたものです。
なお、この規定に関しては、1996年6月現在、日本のほか、米国及びスイスが留保を付しており、英国、フランス等が解釈宣言を行っています。 (外務省)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinshu/top.html
国連自由権規約委員会 7月24日(「慰安婦」関係)
「慰安婦」に対する性奴隷慣行
14.委員会は,締約国が「慰安婦」は戦時中日本軍により「強制連行」されなかったとする一方で,軍や軍のために行動した者による強制や脅迫を通じ,多くの場合,本人の意思に反して慰安所における女性の「募集,移送,管理」はなされたとする締約国の矛盾した立場を懸念する。委員会は,被害者の意思に反して実行されたこうした行為は,それらの行為が締約国の直接的な法的責任を伴う人権侵害と見なすに十分であると考える。委員会は,元「慰安婦」が,公人や締約国の曖昧な立場により促された者による非難を含め,名誉を貶められることにより,再び被害者となることについても懸念する。委員会は,日本の裁判所への被害者による補償のための全ての申立てが棄却されたとの情報や,加害者に対する犯罪捜査や訴追を求める全ての告発が時効を理由に却下されたとの情報を考慮する。委員会は,こうした状況は,過去の人権侵害の被害者として,被害者が活用し得る効果的救済措置が欠如していることを示すばかりでなく,被害者の人権侵害が継続していることをも示すと考える。
(第2条,第7条及び第8条)締約国は,次のことを確保するために迅速で効果的な立法府及び行政府による措置をとるべきである。
(a)戦時中日本軍により行われた性奴隷制もしくは他の人権侵害に対する全ての申立てが,効果的,独立的かつ公平に調査され,加害者を訴追し,有罪であれば処罰すること
(b)司法へのアクセス及び被害者やその家族への十分な補償
(c)入手可能な全ての証拠の開示
(d)本問題についての教科書での十分な言及を含めた生徒及び一般公衆への教育
(e)公的な謝罪表明及び締約国の責任の公認
(f)被害者を中傷しあるいは当該案件を否定するあらゆる企てへの反論
*1:師岡康子『ヘイトスピーチとは何か』p48 岩波新書 2013年
*2:20条【戦争宣伝及び憎悪唱道の禁止】 2 差別、敵意又は暴力の扇動となる国民的、人種的又は宗教的憎悪の唱道は、法律で禁止する。http://www.kobe-u.ac.jp/campuslife/edu/human-rights/international-covenant-B.html
*4:12.委員会は,韓国人,中国人,部落民といったマイノリティ集団のメンバーに対する憎悪や差別を煽り立てている人種差別的言動の広がり,そして,こうした行為に刑法及び民法上の十分な保護措置がとられていないことについて,懸念を表明する。委員会は,当局の許可を受けている過激派デモの数の多さや,外国人生徒を含むマイノリティに対し行われる嫌がらせや暴力,そして「Japanese only」などの張り紙が民間施設に公然と掲示されていることについても懸念を表明する。 締約国は,差別,敵意,暴力を煽り立てる人種的優位性や憎悪を唱道する全てのプロパガンダを禁止すべきである。また,こうしたプロパガンダを広めようとするデモを禁止すべきである。締約国はまた,人種差別に対する啓発活動に十分な資源を割り振り,裁判官,検察官,警察官が憎悪や人種差別的な動機に基づく犯罪を発見するよう研修を行うようにすべく,更なる努力を払うべきである。締約国はまた,人種差別的な攻撃を防止し,容疑者らを徹底的に捜査・訴追し,有罪の場合には適切な処罰がなされるよう必要な全ての措置を取るべきである。