松下昇への接近

 旧 湾曲していく日常

2012-05-27から1日間の記事一覧

火野葦平における、愛の甘さ

池田浩士氏の指摘を記載し確認しておきたい。 火野葦平が「ちぎられた縄」を書いた動機や意図の真摯さを疑う余地など、いささかもない。にもかかわらず、いまの視線で見るとき、この小説(および戯曲)にもまた、火野の少なからぬ作品がはらんでいる根本的な…

杭州難民の惨状

延齢大馬路というのは市中随一の大道らしく、けばけばしい色彩に塗られた高層建築物が立ち並び、戦前には最も繁華を極めていたであろうと思われたが、今は各家とも堅く戸を閉ざし、全く誰もいる様子が無かった。晝(ひる)問は物賣りの支那人や、残飯を貰い…

『花と兵隊』における不等価交換

私たちが杭州に入城したころには殆んど住民の影を認めなかったが、何所からかもう支那人の物賣りが我々の兵営の門を訪れて来た。これは我々を十分に〓(おどろ)かせた。(略)物賣りは殆どんど野菜ばかりであった。竹龍に、野菜、大根、赤い丸い大根、蕪な…

『花と兵隊』と幻の交歓

火野葦平の『花と兵隊』をようやっと読み終わった。難解な小説ではない。兵隊三部作を『土と兵隊』『麦と兵隊』の順に読み、3つ目だ。前二作と違い戦争シーンはほぼない。南京*1に続いて、杭州を陥落させた*2日本軍が、そこの守備をするその部隊に火野の部…