松下昇への接近

 旧 湾曲していく日常

すべての空気嫁主義者は麦精霊の夢を見るか?

あるライトノベルのテーマは資本主義の発生なのかもしれない。次のような会話が出てくる。

・・・確かに、商人は時間にうるさいわな
・・ 時は金なりだ

・・・農夫達だって時間には正確だと思うが
・・ ふん。ぬしは何を見とるかよ。やつらは時間に正確ではない。空気に正確なんじゃ
・・・わからないな
・・ よいか? やつらは夜明けの空気で目を覚まし、朝の空気で畑を耕し、午後の空気で草をむしる。雨の空気で作物の心配をする。雨の空気で縄をない、風の空気で作物の心配をする。春の空気で芽吹きを喜び、夏の空気で成長を楽しみ、秋の空気で収穫を笑い、冬の空気で春を待わびる。やつらは時間なんぞ来にはせん。ただ空気だけを気にかける

 生きるとは自然のなかに生きることであり、それは自然を自然という抽象概念で*1とらえず、その時どきで残酷さやあふれるほどの豊穣をあたえてくれる〈空気〉とともに生きることだ。そのような前近代の生き方が短い文章で見事にとらえられている。
支倉凍砂狼と香辛料』p98より。isbn:4840233020

*1:金や神でも同じだが