松下昇への接近

 旧 湾曲していく日常

2005-11-14から1日間の記事一覧

刊行リスト

松下 昇(についての)批評集 α篇1(88年5月) 松下 昇(についての)批評集 α篇2(89年6月) 松下 昇(についての)批評集 α篇3(95年6月) 〜 …α系は国家による批評 松下 昇(についての)批評集 β篇1(87年9月) 松下 昇(についての)批…

六甲 第五章

視線が地図の上を、表六甲から裏六甲へつき抜けて いくと、奇妙な地名が山系の両側に、ひっそりと息づ いている。カミカ、ハクサリ、ザグガ原、ボシ、マン パイ、シル谷、カリマタ池、キスラシ山、シブレ山…… 地図なしにそこを歩いたら、ここが、そんな地名…

六甲 第四章

かって六甲山上には、いまの神戸大学付近と摩耶山天 上寺付近に砦があり、南北朝時代前夜の戦乱にまきこ まれたが、六百年以上も前、東の砦へ押し寄せた六千 の六波羅軍を、摩耶山の西の砦へ逃げるとみせかけて 曲りくねった谷間へ誘いこみ、一気に襲いかか…

六甲 第三章 

油コブシ。ケーブル六甲山上駅から約1キロ南の丘陵 に突出した巨岩。海抜約六百メートルで、西方の摩耶 山をこえて瀬戸内海を望む。かつてはにぎりこぶし状 に上へ侵びていたが、尖端が徐々に風化されている。 私の中へ〈私〉たちがなだれこんだとき、〈私…

     六甲 第二章 

汝は汝の恥辱をかたれ 私は私の恥辱をかたろう (ブレヒト 「ドイツ」から) 〈私〉たちは、序章から踏み出したまま宙吊りにされており、飢えているが、この飢えは、遭難のような不慮の飢えにも、食糧難のような社会的飢えにも、ハンストのような政治的飢え…

六甲  序章

六甲 序章 松下 昇 不思議なことだ! 灰色の雲が岩塊の分身のように空を飛んでいく。 それはあの荒々しい岩塊の臆病な模写なのだ。 (ハイネ「アッタ・トロル」から) 平衡感覚を失わせるほど色彩のゆたかな屋根の波の上で揺れる海へ背をむけて、山頂へ続く…