松下昇への接近

 旧 湾曲していく日常

早川義夫さんのミニライブ

昨日、ツイッターで下のような呟きを見た。早川義夫さんのものだ。
・・8/3(土)8/4(日)は塩竈ふくちゃんクリニックで佐久間正英さんとライブ。計4回公演。入場無料。お近くの方はどうぞ! 申し込みは、お電話を。022-365-2238
メール hayasakulive@gmail.com www15.ocn.ne.jp/~h440/live.html・・・
これはすごい!しかもとても近くだ、行かなくちゃと、予定にメモしてから気付くと今日だ! という訳で昨日行ってきた。
 クリニックのお医者さんが早川さんのファンで自分でも歌っている人なので、自分の待合室を公開して無料コンサートを開くという、太っ腹な企画のようだった。さして広くはない部屋だがパイプ椅子を並べて20人以上、ぎゅうぎゅう詰めという訳でもなかった。PAも悪くなく迫力ある音だった。ただ早川さんの声は美声ではなくピアノなどの音とかぶさると聞き取りにくい。でも一番前に座ってライブを堪能できた。早川義夫さんを知らないお客さんの方が多かったみたいで、反応はまずまず。

 
 以下に感想を書いてみる。
 1960年代末期の特権的な時代に、一瞬の最も大きな輝きを見せ*1、すぐ消え去った「伝説のミュージシャン」である、早川義夫は、人々に忘れられて久しいある日から活動を再開した。
 「かっこいいことはなんてかっこ悪いんだろう」というアルバムタイトルは衝撃的だった。1960年代末期の画期的な特権性は、「かっこいいこと」を価値として押し出したことにあった。金や権威、インテリの評価を離れて、若者や女子供の感性で、「かっこいい」ことは決められる。全共闘運動はあっけなく敗北したが、音楽やファッションの分野においては「かっこいいこと」はひとつの革命の勝利として定着したかに見えた。いわゆるバブルの時代であろう。この時、「かっこいいことはなんてかっこ悪いんだろう」というテーゼを、ひとり早川義夫が提出したのである。「かっこいいこと」はすでに商業的皮相的かっこよさに完全に占領されていた。かっこよさを私一個の根拠において信じておれば、それはすでに拒否すべき自明性としてあった。
 すでに社会や資本主義が用意したかっこよさを身につける、それ以外にどんな生き方があるというのか。きみという存在はまっさらに生まれる付いたわけではない。つまり過去の産物だ。であればここで現在社会が用意したかっこよさをあなたが拒否する権利はどこから生じるのか、そんな根拠はありはしない、私たちの社会が強要しているのはそうした雰囲気だ。芸術家と呼ばれる人はそうした価値観とは違った自分の価値観を持ってる。しかし表現することは、すでにある基準と関わらせることで何かを表現していくことなので、既成性に対する拒否をあらわにする必要は、一般には、ない。しかし早川の場合は、この「拒否」といったものを、テーマとして抱えてしまった。「拒否」をテーマとして抱えてしまった〈全共闘〉の時代精神の継承者であるかのようにも。
 透谷や吉本隆明の名前を出すまでもなく、わたしたちの感性にまで浸透している「秩序」というものを拒否する者は、〈対幻想〉を存在させる。
 早川義夫は愛を歌う。私は貴方を愛する、ゆえにそこには愛が存在する。貴方は愛に応える。というより愛という関係が私たちである以上、それは個人の感情とは別のレベルに存在するものなのだ。個人という限りにおいて私とあなたの共通点は絶対的な孤独を抱えているという基底にある。愛は孤独を癒さない。孤独が強ければ強いほど、愛は強く輝く。
 身勝手な男、とフェミニストは呼ぶだろう。愛は存在ではない、生活だと彼女たちは言う。全ての男は不誠実だ、だから自己の誠実を信じている男よりもそうでない男の方が信用できると。それはそうかもしれない。ただ、愛が存在でないかどうか、はそれとは別の問題だ。
 真理は、あるいは私たちをともに駆り立てる政治的スローガンは存在すべきではないのだろうか。希望したとしてもそれは存在しないのだろうか。国家が存在しているなら、それに対抗するために真理の存在も措定してもよい。(存在は措定すべきものではない、のはもちろんだが) いずれにしても、私は真理を語る、語ろうとするだろう。
 対幻想には相手が必要だ。早川の苦い経験によれば、相手は2、3年で逃げていってしまうもののようだ。しかし、早川の問いはあくまで、愛の存在にある。愛が存在であったなら、相手の不在は一時的状況にすぎず、存在は消滅しない。

参考:ホームページ
http://www15.ocn.ne.jp/~h440/profile.html
下の方にCDの紹介もある。
 『I LOVE HONZI』(2008年9月27日発売)
 『この世で一番キレイなもの』(1994年) この頁にはたくさんのCDが上がっているが、ライブ会場では上記2枚売っていたので両方買った。

*1:「帰ってきた酔っ払い」なんかと並んで