松下昇への接近

 旧 湾曲していく日常

李玉琴伝奇

入江曜子『李玉琴伝奇──満州国最後の〈皇妃〉』(筑摩書房、2005年)isbn:4480857788  という本が図書館にあったので読んでみた。
なかなか面白かった。
ラストエンペラーこと溥儀は1906年生まれ。1943年に19歳の少女を側室にする。それが1929年生まれ李玉琴、新京(長春)の貧しい食堂の娘。
1945.8.13(大日本敗北の前日)皇居を離脱してすぐ、溥儀は日本に行こうがソ連に押さえられシベリア送りになる。主を失った李玉琴たちはそれからの長い戦後を拠り所なしに生きていかざるを得ない。満州貴族出身の他の親族と違って玉琴にはそうしたアイデンティティはない。素直に庶民に戻ろうとすれば新時代(共産主義政権)に適応できたかもしれないがそれもできず、玉琴はさまよい続ける。玉琴は長く溥儀と離婚せず、また離婚してからも縁を切ることができない。
lmnopqrstuさんによれば、たいていの日本人は「天皇や支配勢力と自己を切り離せなかった奴ら」*1に入るみたいだが、ある意味では玉琴は「皇帝と自己を切り離せなかった」たった一人の中国人だった。

なお、関連図書をふくめた情報がこちらにある。
http://barbare.cocolog-nifty.com/blog/2008/11/post-f8ae.html

*1:このフレーズを作った犯人は野原だが