松下昇への接近

 旧 湾曲していく日常

くらやみの中で 旗がふられる。

くらやみの中で
旗がふられる。
うるしをぬりこめた
かなしみの旗が
夜に同化された憎しみをささげて
うちふられる。
雨は
夜を更にくらくするために
流れとなっておち
闇よりも黒い夜をつくる。
この時
屈辱の歴史をむくる
旗は暗い くらい
夜の重さに耐えてはためき
つぶてのような雨をうちかえし
赤い血を自(み)ずからの掌にとりもどす
ために顔をあげて
歌のないマーチを斉唱するのだ。

 沖縄で昼のメーデー集会が禁止されていた間、人々は夜に入ってから集ってメーデーを祝した、という。
 美しい詩である。
真っ黒な夜の中で暗い色の旗が振られる。ゆるやかな動き。歌はない。雨。憎しみ、屈辱といったストレートなテーマはしばしば詩の形成を妨げるがこの場合はそうはならず、背後の巨大なエネルギーとなり巨大な旗をはためかせている。憎しみ、屈辱を テーマとして取り上げているのではないからだ。
 石垣島の詩人の詩である。大江健三郎沖縄ノートp30から