松下昇への接近

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東ティモールにおける日本の戦争責任についての申し入れ

東ティモールにおける日本の戦争責任についての申し入れ

内閣総理大臣 小泉純一郎
外務大臣 麻生太郎
 
 1942年2月20日、日本軍は当時中立であったポルトガルティモールに侵攻し、1945年8月15日の敗戦まで約3年半にわたり占領を続けました。この占領は戦争に何のかかわりもない現地の人々に甚大な被害をもたらしました。

 日本軍は、村長やリウライ(伝統的な首長)に命じて、住民の乏しい作物や家畜を徴用し、住民を軍用道路やバラック建設のために働かせました。駐屯地には「慰安所」が開設され、脅迫によって集められた多くの女性が長期にわたって性的暴行を受け続けました。占領の後半では、日本軍は制海・制空権を失い、物資の補給が途絶したため、収奪のレベルは高まり、「慰安婦」も含め日本軍に酷使される人々に食糧の自己調達を強いるような事態となりました。また、日本軍は、連合軍兵士や連合軍を支持するポルトガル人を助けた住民を容赦せず、彼らを捕え、拷問し、処刑に至る例も多々ありました。日本軍への協力を拒んだ村長やリウライは討伐の対象になりました。あるリウライは女性を差し出すことを拒否して処刑されました。一方日本軍に協力した者は、戦後ポルトガル政庁によって恣意的な報復を受け、アタウロ島の監獄に収容された多くの人が、栄養失調と虐待により命を落としました。

 しかし、今日にいたるまでこれらの被害に対する日本政府の謝罪と補償は皆無であり、東ティモールは日本の戦後補償の空白地帯と化しています。戦後も継続したポルトガル独裁政権は対日賠償請求の問題をうやむやにしました。現在の東ティモール政府は東ティモール側からはこの問題に関して何も要求しないという態度を取っています。しかし、これらの方針は被害者たちとの協議を経ずに一方的に決められたものです。

 東ティモール全国協議会は2000年に東京で開催された「日本軍性奴隷制を裁く女性国際戦犯法廷」をきっかけに、おもに女性の性暴力被害者からの聞き取りと文献調査を実施してきました。日本軍占領による被害実態を明らかにすることは、当会にとって結成以来の課題でしたが、インドネシア軍駐留下でそうした調査を実施することは不可能でした。当会は戦後60年にあたる2005年に東ティモール人権協会と共同で性暴力被害に関する新たな調査プロジェクトを開始し、その一環として2006年1月6日と7日、東ティモールの首都ディリにあるカノッサ修道院ホールで「従軍慰安婦の歴史を知ろう」と題する公聴会を共催しました。この公聴会には最大で200名近い参加者があり、現地の法曹、人権、教会、外交、報道関係者の他に、熱心に聴き入る一般の若い人々の姿も見受けられました。

 この公聴会では6名の被害者(1名はビデオ証言)と被害者の息子2名、そして目撃者として元日本軍補助兵1名、民間人2名が証言を行ないました。すべての証言が被害者たちがいかに逃れえない状況で性的な暴力を受け続けたかを伝えていました。またほとんどの被害者が日本軍は服も食物もお金も与えなかったと述べました。フランシスカ・マセドさんは日本軍につけらえた「トミコ」という名の入れ墨をされました。何度も逃げることを考えたが両親を殺すと脅されていたので断念したと語りました。アリシア・プレゴさんは最初に日本軍の将校に犯された後自ら命を絶つことを考えたそうです。マリアナ・アラウジョ・ダ・コスタ・マルケスさんは、終戦後に村へ帰る時、裸で歩いて帰ったことがつらかった、服も与えられなかったのは自分たちを動物だと思っていたからではないかと語りました。ビルジニア・ダ・コスタさんは村へ戻ると日本軍からたくさんものをもらっただろうと村人からあらぬ疑いをかけられ侮辱されたそうです。また結婚した後も子どもができませんでした。子どもができなかったのはアリシアさんも同じです。日本人の血をひくジョゼ・アシンソコさんは「自分はいったい何人なのか。日本からも東ティモールからも見放されている気持ちがする」とその孤絶感を語りました。アシンソコさんの母親が無理矢理その軍人の妻にされたことは複数の証言からすでに明らかになっています。公聴会の最後で被害者たちは現在の厳しい生活への支援と孫たちの就学支援を願うと語りました。

 被害者の人生は残り少ないものとなりました。2000年に被害事実を公にしてから日本政府による謝罪と補償を求め続けたエスメラルダ・ ボエさんが2006年2月3日に亡くなりました。東ティモール全国協議会は、日本政府が自らの責任において、日本軍占領期の被害に関して誠意ある対応を行なうことを願い、以下を要請します。

・被害事実に関する公的調査を一刻も早く開始する。
・性的暴力被害者の名誉を回復するため、一刻も早く公式な謝罪を行なう。
・日本軍占領期の被害に対する補償の方法を検討するため、東ティモール政府、被害者、関連団体との協議を早急に開始する。

 日本政府の誠実な行動は今後長きにわたり両国の友好関係の礎となり、かつ真の国益にそうものと確信します。
 以上。
 
【呼びかけ団体】
札幌東ティモール協会
仙台・東チモールの会
東京東チモール協会
東ティモール支援・信州
名古屋YWCA東チモールを考える会
大阪東ティモール協会
岡山・東ティモールの声を聞く会
下関・東チモールの会
大分・アジアと日本の関わりを見つめる会
東ティモールと連帯する長崎の会
長崎東ティモール協会
日本カトリック正義と平和協議会
東ティモール全国協議会 
mnjmko@skyblue.ocn.ne.jp