松下昇への接近

 旧 湾曲していく日常

 明治維新を用意した尊皇攘夷激派のうち薩摩長州のように生きのびて新権力に就きえた部分ではなく、水戸天狗党赤報隊のようにその直前に無惨に散っていて行った部分に心情的に深くコミットし、御一新後たちまち官僚に簒奪されてしまった公(おおやけ)に絶望し、狂死していくのが、(この小説における)青山半蔵という存在である。
 新国家建設のその一瞬の高揚に浮かびあがる<われわれ>と国家の一致を信じ、その乖離から現存の国家を全否定する。アナキズムというものがそのような思想をいうものであるなら、アナキストが「新しき古(いにしえ)」を支持しても何ら不思議はない。