小さな神たち
記紀で興味深いのは、理解できないような異様な音のつながりをもつ言葉(神の名前など)たちである。神話体系としては主神が誰でそれに次ぐものが誰なのかというヒエラルキーが不分明だ、と指摘できる。
古事記の最初の神々を木村紀子氏の整理により記してみよう。*1
1.天之御中主、天之常立神(とこたちのかみ)、国之常立神、
ここだけにしか名がみえない抽象観念的な独神、三神。
2.高御産巣日神(たかみむすひのかみ)神産巣日神(かみむすひのかみ)
別天神で「隠身」といわれながら、後に天照大神と並び高天原の神としての存在が語られる二神。
イザナギ(伊邪那岐)、イザナミ(伊邪那美)
3.ウマシアシカビヒコジ神
ウヒジニ(宇比地邇)、イモスイジニ(妹須比智邇)
ツノグイ(角杙)、イモイクグイ(妹活杙)
オオトノヂ(意富斗能地)、イモオオトノベ(妹大斗之辨)
オモダル(於母陀流)、イモアヤカシコネ(妹阿夜訶志古泥)*2
全く地上的で卑小な具象形容をもつ神名のグループ。
3のグループは名前が出るだけで何の活躍もしないのですが、高貴そうでない奇妙な名前は興味深い。
1.のグループは、3.の感覚とは全く違った高い抽象性を操る能力(中国由来のものだろうが)をうかがわせるもので、3.よりかなり後代に追加されたものだろう。富永仲基の「加上説」の好例だと思うが、そう主張したひとはいたのだろうか。
*1:p58『古層日本語の融合構造』平凡社 isbn:458240328X