松下昇への接近

 旧 湾曲していく日常

中道右派 『それでは、まず、永井和論文の構成を示し、次に、それに対してどのように反論していくかと言う構成を示し、最後に、その構成の各項目をなす具体的反論を行います。

最後の段階はまだ途中ですが、それ以前まではできる限り示しましょう。
ただし、あなたの上記回答及び最後のコメントには、間違いや印象操作が多数含まれているため、承服できない点が多々あります。この件にカタがついたら、その点について私が指摘し、あなたのコメントを求めます。

まず、永井論文の構成中、批判検討に必要な部分を抜粋要約し、順次検討を加えます。各項目は、永井論文の構成を前提に、議論の整理のため、私がつけたものです。

第一、はじめに

一、永井論文の背景および視点
1996 年の末に新たに発見された内務省の警察資料が『政府調査「従軍慰安婦」関係資料集成』1、1997年)』に収録されているのを知り、慰安婦論争において、その史料解釈が論議の的となった陸軍のある文書の背景を説明してくれると思われた、一連の資料に出くわしたため、史料実証主義的検討を試みた。

二、軍慰安所の施設としての性格
慰安所は軍の施設であるにもかかわらず、軍隊制度についての知識を欠いたまま議論しており、軍隊の基礎的な知識があれば、公娼施設論は成り立たない。

三、永井論文の原型となる2000年発表論文の視点
政治的な言説にのっかった史料の恣意的解釈が横行するいっぽうで、言語論的展開を持ち出して史料実証主義の終焉を宣言する言説1)が出されたあと、史料実証主義の立場からささやかな抵抗。

第二、問題の所在

一、永井論文の骨子
本報告では、1996年末に新たに発掘された警察資料を用いて、「従軍慰安婦論争」で、その解釈が争点のひとつとなった陸軍の一文書、すなわち陸軍省副官発北支那方面軍及中支派遣軍参謀長宛通牒、陸支密第745号「軍慰安所従業婦等募集ニ関スル件」(1938年3月4日付−以下、『陸支副官通牒』という。)の意味を再検討する。

支那事変地ニ於ケル慰安所設置ノ為内地ニ於テ之カ従業婦等ヲ募集スルニ当リ、故サラニ軍部諒解等ノ名儀ヲ利用シ為ニ軍ノ威信ヲ傷ツケ且ツ一般民ノ誤解ヲ招ク虞アルモノ或ハ従軍記者、慰問者等ヲ介シテ不統制ニ募集シ社会問題ヲ惹起スル虞アルモノ或ハ募集ニ任スル者ノ人選適切ヲ欠キ為ニ募集ノ方法、誘拐ニ類シ警察当局ニ検挙取調ヲ受クルモノアル等注意ヲ要スルモノ少ナカラサルニ就テハ将来是等ノ募集等ニ当リテハ派遣軍ニ於イテ統制シ之ニ任スル人物ノ選定ヲ周到適切ニシ其実地ニ当リテハ関係地方ノ憲兵及警察当局トノ連携ヲ密ニシ次テ軍ノ威信保持上並ニ社会問題上遺漏ナキ様配慮相成度依命通牒ス2)

二、陸支副官通牒が議論の対象となった背景
この文書は吉見義明の発見にかかるもので、軍が女性の募集も含めて慰安所の統制・監督にあたったことを示す動かぬ証拠として、1992年に朝日新聞紙上で大きく報道された。
中道右派の注:秦氏によると、慰安婦問題研究者の間では、当時既に広く知られていた資料であり、この文書から国家責任を基礎付け得ると考える人はいなかったため、誰も問題としなかったのを、後発の研究者である吉見氏が朝日新聞と協調して、あたかも国家責任の根拠となる文書であるかのような恣意的解釈を広めてしまったため、問題が大きくなったとのことである。

三、陸支副官通達についての解釈論の整理
(略)あなたには釈迦に説法でしょう。私も大筋で異論はありません。

四、軍慰安所の施設としての性格からの検討(永井の新視点?以下『慰安所兵站施設論』という。)
慰安所と軍の関係については、慰安所とは将兵の性欲を処理させるために軍が設置した兵站付属施設であったと理解するため、これを民間業者の経営する一般の公娼施設と同じかそれに準ずるものとして、軍および政府の関与と責任を否定する自由主義史観派には与しない。もっぱら「強制連行」の有無をもって慰安所問題に対する軍および政府の責任を否定せんとする彼らの言説は、それ以外の形態であれば、軍と政府の関与は何ら問題にならないし、問題とすべきではないとの主張を暗黙のうちに含んでいるのであり、慰安所と軍および政府の関係を隠蔽し、慰安所の存在を正当化するもので、妥当でない。

五、陸支副官通達の関連文書からの背景事情の考察
最近になって警察関係の公文書が発掘され、問題の副官通牒と密接に関連する1938年2月23日付の内務省警保局長通牒(内務省発警第5号)「支那渡航婦女ノ取扱ニ関スル件」(以下、『内務省警保局長通牒』という。)の起案・決裁文書とそれに付随するいくつかの県警察部長からの内務省宛報告書(以下、『各種県警部長内務省宛報告書』という。)が見つかった。

この警察資料の分析から、この二つの通牒が出されるにいたった経緯と背景を考察し、従来の解釈論争が想定していたものと異なる背景事情を考察する。
婦女誘拐容疑事件が一件報告されてはいるが、それ以外には「強制連行」「強制徴集」を思わせる事件の報告は発見していない。
発見された警察資料は、山県、宮城、群馬、茨城、和歌山、高知の各県警察部報告と神戸や大阪での慰安婦募集についての内偵報告にすぎず、その他の内地・朝鮮・台湾など募集がおこなわれた全地域を網羅するものではなく、それらの地域で「強制連行」や「強制徴集」がおこなわれた可能性を全面的に否定するものではない。
陸支副官通牒で言及されている「募集ノ方法、誘拐ニ類シ警察当局ニ検挙取調ヲ受クルモノアル」という事件は、和歌山県警察部から一件報告されており、そのような事件が現におこっていたことが、この警察報告により証明され、警察報告と副官通牒との間には強い関連性が存在する。

そこで、今後さらに新しい警察資料が発見され、それによって必要な変更を施す必要が生じるまでは、もっぱら以下に述べる作業仮説(以下、『永井作業仮説』という。)を採用し、その上で考察を進める。

六、永井作業仮説
内務省は主として現在知られている警察資料に含まれている諸報告をもとに、前記内務省警保局長通牒を作成・発令し、さらにそれを受けて問題の陸支副官通牒が陸軍省から出先軍司令部へ出されたのである』

七、永井考察(ロジック)
1、永井作業仮説を前提におき、和歌山の婦女誘拐容疑事件一件を除き、警察は「強制連行」や「強制徴集」の事例を一件もつかんでいなかったと結論づける。
2、すると、陸支副官通牒から「強制連行」や「強制徴集」の事実があったと断定ないし推測する解釈は成り立たない。
3、また、これをもって「強制連行を業者がすることを禁じた文書」とする自由主義史観派の主張も誤り。なぜなら、存在しないものを取締ったりはできないからである。
4、では、陸支副官通牒や内務省警保局長通牒は何を取締まろうとしたのか、これらの通達はいったい何を目的として出されたのかを新たな視点から分析検討すべきである。以下は、その点について永井が分析した結果の解釈(以下、『2通牒の永井解釈』という。)
内務省警保局長通牒は、軍の依頼を受けた業者による慰安婦の募集活動に疑念を発した地方警察に対して、慰安所開設は国家の方針であるとの内務省の意向を徹底し、警察の意思統一をはかることを目的として出されたものであり、慰安婦の募集と渡航を合法化すると同時に、軍と慰安所の関係を隠蔽化するべく、募集行為を規制するよう指示した文書にほかならぬ。
②陸支副官通牒は、そのような警察の措置に応じるべく、内務省の規制方針にそうよう慰安婦の募集にあたる業者の選定に注意をはらい、地元警察・憲兵隊との連絡を密にとるように命じた、出先軍司令部向けの指示文書であり、そもそもが「強制連行を業者がすることを禁じた」取締文書などではない。
(続く)』