松下昇への接近

 旧 湾曲していく日常

嫌韓・嫌中すれば対米従属しかない

白井聡氏の講演を聞いた。
言っていることの過半は賛成、それも強く頷きたいことなのだが、どうも油断できないというか嫌な感じがある。
何が欠けているかというと、それは<主体>だ。レーニンが私たちに教えてくれたものそれは<主体>だった。
世界であるところの曖昧なもの<わたし>は、党(プロレタリアート)に参加することにより歴史に参画できる<主体>となる。これがレーニンのマジックとして一世を風靡したものだ。


白井は、評論家として言葉を操っているだけだ。戦後70年という長い間の印象的な幾つかのイメージにだけスポットを当てることにより、「永続敗戦レジーム」なるものをでっち上げる。
そこにあるのは確かに大きな問題ではある。
近年、韓国や中国が日本に負けない優れた工業製品を作り出せるまでに発展し、日本は彼らに対して持っていた優越感の根拠を失った。実際の優越を失ったので、架空の優越「嫌韓・嫌中」を作り出した。「嫌韓・嫌中」に踊るネトウヨは少数であっても、その根拠である、「日本人は韓国人や中国人より優れている(はずだ・そうでなければならない)」というドグマは実は日本人の大多数に共有されている。
左翼リベラルにおいては、まず自身ではなく教科書で学んだ(大学で学び続けてきた)西欧系思想が判断基準となる。その場合、「(自分のもっている基準)が韓国人や中国人より優れている」のは当然のことになる。
日本国家はあれだけ大きな敗戦をしながら、「戦後革命」の確定に失敗した。失敗が明らかになったのは今回の安倍政権においてである。靖国参拝はどちらかというと善になり大東亜戦争もどちらかというと善になった。
あれだけの敗戦に関わらず、戦後権力を握ったのは戦前からの支配層の一部だった。したがって彼らは自主憲法制定を党是に掲げていた。しかしながら彼らは彼らなりに真面目に民主主義を肯定していたように見えた。大衆の福祉、討議による民主主義、基本的人権を彼らは肯定していたはずだった。しかし2012年4月の自民党憲法改正案では、それらのものは否定されている。
戦後社会は民主主義社会だった、というのは左翼リベラルの誤解だったのか?
ここで、白井聡氏は「永続敗戦レジーム」なるものを持ち出す。
敗戦は存在しなかった。ただ終戦があっただけだ。戦争は天災と同じものとして受け止められた。今回の原発も同じである。
大衆が大きな犠牲を家族などに負いながら敗戦を自らのものとして、受け止めることができなかったのはやはり思想的な弱さであっただろう。すべては「平和」「憲法九条」に背負わされ、日本は生まれ変わったことになった。
1990年冷戦が終わり、その後米国は「世界の警察官」としての役割を果たす予算と兵士の損害による自国民のダメージに耐える力を失う。そこで、米国は日本に「憲法九条」を廃棄し、集団的自衛権で米軍の支援をすることを求めることになる。これが成功しつつあるのが2015年である。
中国や韓国が国力を増すに連れ、中国(や韓国)と米国という二つの勢力に対して、日本がバランスを取りながら国益を追求するのが当然のこととなる。しかしそれでは「日本が米国に従属し続ける」という米国が失ってはならない構図が失われてしまう。したがって米国はどんな手段を使ってもそれを阻止するべく努力を、私たちの見えないところでも周到にはらい続けていると考えるべきである。
好都合なことに日本には伝統的に、「日本人は韓国人や中国人より優れている(はずだ・そうでなければならない)」というドグマがある。戦前はその優越感は、弱者の側に立ち強者(米国など)と戦うといった反帝国主義ともつながっていった。そのような反米的アジア主義は殲滅しなければならない。そして韓国人や中国人に対する差別意識、「嫌韓・嫌中」意識を盛りたてなければならない、米国のこの目論見は大衆のルサンチマンに共鳴し爆発的にヒットした。また政治的には、靖国神社、にA級戦犯合祀をするという極右の試みを拒否せずに事実上許容した。これは米国の正義に本来反することではあるが、それよりも侵略の痛みを民衆的に持ちまた国家としてもそれを保持し続けてきた韓国や中国は絶対に許容できないことである。自らの痛みよりも、対中離反のメリットを取ったわけである。


このようにしてわたしたちは「日本を取り戻す」と言う靖国派の安倍首相が、こともあろうにイスラエルで(アジア主義者にとって戦後最も唾棄すべき国がイスラエルであることは言うまでもない)イスラム国なるものに対する戦争の末尾に日本も今後加わって行きますと、嬉しそうに宣言することを聞くことになったわけである。
米国製「嫌中マジック」の効果である。


白井聡氏の言う「永続敗戦レジーム」なるものが戦後一貫して存在したと考えるのは無理がある。
明治以来日本人には、日本人だけが欧米人並だという名誉白人意識があり、敗戦のコンプレックスと、冷戦によるアジアからの政治的隔離により、それは一層強いものとなっていった。中国韓国の国力が増すにつれそれを埋め合わせるためにも盛んになる差別意識は、米国にとって好都合なものであった。中国韓国と連携する可能性を一切たち切った日本は対米従属一途になるしかない。このようにして米国は、中東への日本軍の事実上の派兵を近い将来、手に入れるであろう。

シモツカレ氏が

 事実認識が明らかにおかしいですね。シャーマン米国国務次官が「日中韓三国首脳会談を望む」と最近発言したり、安倍の靖国参拝に米国国務省が批判的態度を取ったことはid:noharraの脳内にはないようです。
 米国にとって、日本が中韓と敵対的になることは「中韓との交渉役として日本が使えない」「中韓の批判の矛先が日本の同盟国・米国に向かって来かねない」と言う意味でむしろ迷惑でしょうに。

と、下で言っている。
「米国にとって、日本が中韓と敵対的になることはむしろ迷惑」ですって。トンマな意見だとしか思えないが、賢い人もほぼそう思っているよね、困ったね。