松下昇への接近

 旧 湾曲していく日常

げんこくだん 第64号


山浦元さんという方がいる。
20年以上前から反原発の思想と運動の追求を持続してこられた。高齢であり現在体調が悪いともお聞きしている。
友人が山浦氏が発行に関わっている「げんこくだん」という小さなパンフを送って来てくれた。
311の惨事を見て急に反原発に目覚めたような顔をしている私、のようなものはずっと少数派として思想と運動を継続して来られた山浦さんたちに、大きな敬意を感じる。
その〈 〉のために、この薄いパンフの表紙をここに掲げる。

なぜ専門家は市民の立場に立たないのか?

 最近広く知られるようになった下記のような事実がある。

 なんと5億円! 寄付講座だけでも、これほどの大金が、東京電力から東京大学大学院の工学研究科にジャブジャブと流し込まれている。これは、東大の全86寄付講座の中でも、単独企業としてあまりに突出した金額だ。
 東大だけではない。東工大慶応義塾大学など、全国のあちこちの大学の大学院に、東京電力は現ナマをばらまいている。
http://www.insightnow.jp/article/6430

山浦元氏は、上に紹介したパンフの「擬制の告発 57」で、米軍から提供される資金が大学に流れ込んでいることを紹介している。

 米軍の生物化学兵器枯葉剤が問題になったベトナム戦争(1960〜L975年)のさなか、日本物理学会の37団体が米陸軍から約3億8千万円の提供を受けていたことが判明しました。提供先は何と細菌や病理研究の機関でした。目的は明白でしょう。物理学会は軍隊との非協力を決議し、日本学術会議も軍事目的の科学研究は行なわないと声明しましたが、それから40年余を経た今、我が国の大学や公的な研究機関が再び米国の軍事技術の研究総体に深く関わっている事実が明らかになってきたのです。

 昨年の9月、朝日新聞は[アカデミアと軍事]という連載記事で、日本の大学や公的研究機関に米軍から提供される研究資金が近年増加傾向にある実態を報じました。

1)米空軍の「アジア宇宙航空研究開発事務所」から日本への助成件数は10年間で2・5倍、助成総額は10倍に増加。例えば、某大学某名誉教授の研究室は20万ドルを受け取り、超小型航空機の電源に応用できる超小型ガスタービン技術の基礎研究を実施。某大学某教授の研究グループは研究開発費5万ドルを受け取り、米・豪両軍主催の軍事ロボット大会に参加、市街地で戦闘員と非戦闘員を識別する自動制御軍事ロボットの能力を競い、レーザー照射で敵を無力化。

2)米軍横田基地を介して大学や研究機関と結ばれた契約は東京大‐7万5千ドル(05年)、理化学研究所6万ドル(06年)、大阪大9万5千ドル(09年)、東京工業大5万ドル(09年)など200件以上。

3)ノーベル化学賞を受賞した某大学名誉教授は研究員として米国留学した降、米海軍研究局から助成を受け、海軍研究局は彼の研究成果の応用例として「高度な軍事センサーに使う多機能電子機器」を紹介…等々。これらは大学等に流入している米軍資金のごく一例に過ぎません。2010年度の米軍の研究開発予算は800億ドル(約7兆円)で、国の補助金カットに狼狽した日本の学者らが、なりふり構わず米軍マネーに群がっているのです。
(『げんこくだん 第64号』p8 より

わたしたちはアイザック・アシモフの名前とともに「ロボットは人を殺してはならない。」を一つの公理として深く記憶している。
それは実は公理でもなんでもなく、第二次大戦の反省がアシモフとその周辺に波及しただけの一時的な傾向にすぎなかったのだ。
国家が存在することを承認しなければならない。軍が存在することを承認しなければならない。それを承認することは即ち、「ロボットは人を殺してもよい。」ことを承認することである。それが21世紀の倫理だ。

全ての概念を再検討する

上の山浦氏の文章には続きがある。少しトーンが変わるが、以下に引用する。

研究費と仕事と自らの業績しか視界にない〈科学技術者〉集団に提示しておきたい論考があります。
  大学闘争当時、神戸大学の教員であった松下昇さんは「この闘争をかすめる一切のテーマを自分の必然的なテーマとの関わり合いの上でとらえていく」と宣言し、大学闘争で提起された諸テーマを徹底的に対象化し普遍化することを目指して、いわく言い難い止揚記号〈 〉を駆使しつつ、その後の情況の基底に迫る膨大な表現パンフを自ら刊行〜配布してきましたが、96年5月、「全共闘運動は人類史における意識〜言語と現実の比重の均衡の変換点で全ての既成概念を再検討〜解体する動きの最終形態として開始され、これからも持続する」と書き遺して自然界へ還っていきました。彼の晩年の代表的な表現のひとつは89年から96年の死の直前までに刊行された全14冊に及ぶ「概念集」シリーズで、私たちか直面してきた情況と交差する既成概念総体の再検討〜解体〜止揚を試みています。松下さんの表現は一般には殆ど流布していないと思われるので、少し長くなりますか「科学」および「技術」の項を以下に掲載します。(山浦 元)

「科学」と「技術」

概念集の二つの項目は、すでにインターネットでは読める。
「科学」
「技術」