松下昇への接近

 旧 湾曲していく日常

日本政府や赤十字にも責任はある論

bogus-simotukare さんの次の問いかけに答えるのが遅れた。

>帰国事業に加担し、50年も続く北朝鮮国内での「帰国者」への死に至る抑圧に直接の責任があるのは北朝鮮国家と総連である

北朝鮮と総連」とそれ以外(日本政府や赤十字)の「帰国事業」についての責任を区別する理由は何なのでしょう?
大して違わない気もしますが?(個人的には日本政府のやったことは後、ほったらかしと言うところが満州移民とかドミニカ移民みたいだと思う)

わたしが依拠している「北朝鮮帰国事業」の副題は、「壮大な拉致」か「追放」か というものです。おおざっぱに言うと、高政美裁判支援の立場は前者*1で、総連全否定を嫌う人は後者になる可能性が強いようです。bogus-simotukareさんも後者のようですね。

なぜ、わたしが前者に加担するか。
訴状は次のように述べています。

被告(総連)は北朝鮮政府の指示命令に従い、上記北朝鮮の誘拐とも云うべき在日朝鮮人帰国事業計画を積極的に実行し、
北朝鮮が被告が宣伝したような「地上の楽園」ではないと知りながら、正反対の虚偽の事実を宣伝するなどして、
帰国者を地獄のような環境に送り込む誘拐行為を実行正犯として実行したものである。

帰国運動の大きな盛り上がりというものは、在日の人たちの自発的なものではなかった。北朝鮮政府の綿密なプログラムがあって、それによって総連が着実にシンパを獲得していって大きくしていったものなのです。
もちろんその背景に、わたしの親の世代の日本社会が在日差別を日々行っていたという事実があることは確かです。在日差別は克服されるべき悪です。しかし共産党社会党は日本という現場において差別と戦うことに真正面から向き合うより、「人道事業」の名の下に在日朝鮮人を船に載せてしまうことに熱中しました。日常生活の中で差別と戦うことは労多くして効少ない営みであり、第三者に分かりやすくアピールできるわけでもありません。差別と戦うことが正しいのだという立場に立つのなら、先輩たちが今から見て必ずしも正しいとは言えない方針になぜ賛成してしまったのかをもう一度考えてみる必要があるでしょう。
   
菊地さんはこうも言っています。「あとがき」で。

北朝鮮が「地上の楽園」でなくとも、せめて自由で人間的に暮らせる社会だったら−−そう考えることは虚しいことかもしれない。だが仮にそうだとしたら、帰国者の多くは北朝鮮社会に順応し、帰国事業は半世紀を経たいまも「人道事業」と評されていたに違いない。*2

これは帰国事業そのものを「誘拐」として厳しく糾弾する「訴状」の論点とは少し違ったものです。3/21付けで私も書きました。「北朝鮮は予想よりずっと貧しかった。しかし貧しさ自体が問題なのではない。民族差別される日本よりも、国家建設に参加でき自分の能力をそれにいかす事ができれば数年後にはよりましな生活もやってくるだろう、「帰国者」はそう信じようとしただろう。」
しかしいくら努力しようとも努力はすべて虚しかった。北朝鮮はひどい人権抑圧国家であるだけでなく、経済を普通に回して食料を国民に行き渡らせることもできない欠陥国家であったのだ。
 
菊池氏はあらためて問う。帰国者・日本人妻らの「悲劇」を生んだ直接的な原因は?と

第一に北朝鮮国内の人権抑圧体制、
第二に帰国意思形成に決定的な影響を与えた宣伝と情報統制(北朝鮮の実態隠蔽)にほかならない。
筆者は多数の脱北した元帰国者・日本人妻から話を聞いてきたが、証言を総合すると、彼らの批判の的はこの二点に尽

*1:彼らは「誘拐」という言葉を使うが

*2:p241「北朝鮮帰国事業」