松下昇への接近

 旧 湾曲していく日常

ストレートなクィア 塚本邦雄

平和記念ドーム観に来て老婆たちはふはふはと綿菓子を食ひをる


平和祭 去年(こぞ)もこの刻牛乳の腐敗舌もてたしかめしこと


死者が遺せしシーツのごとき夕空が垂れて平和に酷似せる日日


迦陵頻伽のごとくほそりてあゆみますあれはたまぼこのみちこ皇后*1


夏雲雀こゑほそりつつ梁塵秘抄傀儡女(くぐつめ)のひとり「たれかわ」*2


極道と呼ぶ華麗なる悪名にわれははるけし帷子(かたびら)の辻


かつて男の他にかぞへし少年にあかときの愛 戀の黄昏(くわうこん)


スラム街に寺院混じりて人の〈死〉に今宵 みづみづしき燈(ひ)をともす


塚本邦雄

分かりやすい歌を選んでみた。

*1:たまぼこの、は道にかかる枕詞

*2:梁塵秘抄口伝集にでてくる遊女の名前