松下昇への接近

 旧 湾曲していく日常

日本語から漢字を引算できるか?(2)

承前: http://d.hatena.ne.jp/noharra/20080625#p1

中本正智さんの『日本語の系譜』isbn:4791751973 という本を読んだ。
なかなか良い本だったように思う。

日本語の元は何か?
・・アジア大陸に広がったアジア古層語だ。
まあこういうことを考えるのは二千年前後より前を考えることだが、どこまで遡っても日本、朝鮮、中国といったカテゴリーに私たちの頭が支配されてしまうことにより日本祖語といったものを追い求めてしまったりする過ちをおかす。
中本氏の議論の特徴のひとつは強文化圏の言語*1の影響力の強調だ。

中国大陸における強文化圏をこのように歴史に追いもとめていくと、一地域にとどまるどころか、常に南北に揺れ動いている。その度に弱小民族を統合し、併合し、より強大になり、より広範囲に及んでいった。(略)現在の強大になった中国語の陰には、併合された諸民族の異系統の言語が存在していたのであろうことは想像するに難くない。
同書 p326

 まさに中本のように、カテゴリーの支配力から逆方向に観察力を開発するために学問はなされるべきであろう。

素人も言語学者も漢字を敵視する傾向を持つ人が多い。漢字が日本語というシステムとは別の種類のシステムであることが気に入らないのであろう。現実より主感を大事にするナルシストと罵ってやりたい。

 漢字の本質は表意文字である。字形を見て意味を読み取る。発音のまったく異なる異系統の言語があったとしても、漢字の字形によって、あるていどのコミュニケーションは可能である。筆談を想起するまでもない。漢字が近代まで表音文字に移行せず、表意文字として機能してきたのは、多くの異系の民族と言語をかかえてきたという中国の国情があったからではないだろうか。
同書 p328

(ところで、「字音語」って何だろう? 漢字を音(オン)で読んだ言葉、という意味でいいね?)
日本語の馬 umaは 中国語(北京)の ma や朝鮮語(ソウル)の mal と類縁関係がある。
魚:「いを」「うを」は訓で和語であるとみられているが、中国語の変化形を見ると、同系の
字音語である可能性が大きい。温州、福州などを検討すると、「iu」などの音に遡れる可能性あり。
肉:肉は呉音で「ニク」漢音で「ジク」 cf.p389-392


中国語からこれらの言葉を借りたと言うのではなく、東シナ海沿岸域に広がったアジア古層語(アイヌ祖語を含む)あるいはいわゆる中国語の相互交渉からの影響と考えよう、ということだ。

  1. 日本語に近似する同系統の言語を発見すること。
  2. 同系統の言語は音韻法則で証明できるということ。(同書 p46)

「この二点は、明治以降のヨーロッパ言語学に由来する信仰にも近い信条であり」と中本は述べ、この呪縛から自由になるべきだとする。全くそのとおりだと思う。
まあわたしのようの業界外の人間がこの論点についてだけ熱くなる、のも不思議。でもどこかに根拠はあるのだと思う。


ニライカナイ、について。p286〜
ニライの古形はミルヤである。ミルヤはミ(土)ろロ(の)ヤ(屋)。つまり土のなかの屋という意味。それは、朝に東から現れて、夕に西に沈んでいく太陽神の居所以外の何ものでもない。沖縄だったら太陽が昇る所は海だろうと常識的に思ってしまうがそうではないらしい。洞窟に居住していた生活感覚のなごりということなのだろう。もちろん、アマテラスの岩戸隠れと関係がある。

*1:具体的には中国語