松下昇への接近

 旧 湾曲していく日常

リンゴとは何か?

「英ちゃん(中国でのテルのもう一つの名が緑川英子だった)」
突然母は今まで聞いたこともないような、厳しい声で私を呼んだ。
「私が折角お前にあげた二つのリンゴ(赤いほっぺた)はどうして見えなくなってしまったの」
「それは、お母さん…」
私は悲しく自分の蒼白い頬を押さえた。上海の時はリンゴはまだあったのよ。それからはお母さんもご存知のように、広州にも、漢口にも、重慶にも、どこにもリンゴはなかったから、とうとう私は自分のリンゴを食べてしまったの。

母親からもらった二つのリンゴを失くしてしまったテル。しかし、あなたからもらった「誇り」だけは失くしてはいないと訴えます。たしかにリンゴは失くしてしまったけれど、それは仕方のないこと、許して欲しい。
http://www.rcc-tv.jp/08ringo3.htm


ところで読んだことはないのだが、りんごというと思い出すのは
「りんごの木の下であなたを産もうと決めた: 重信 房子」という本。広大なユーラシア大陸の砂塵の下で反日活動(あるいは反帝国主義活動)に英雄的に邁進しそして子供を生んだ二人の女性が、林檎というイメージに導かれた長編を書いたという符合は、印象的だ。
isbn:9784344000827