松下昇への接近

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「在サハリン韓国人」への支援

 今春、成立した政府の平成19年度予算に「在サハリン『韓国人』支援」の名目で約3億円が盛り込まれたことを一体どれだけの国民が知っているだろうか。「人道的支援」の名の下、サハリン残留韓国人問題で政府が拠出してきた金はすでに70億円近い。だが今夏以降、サハリンから韓国への帰国事業を拡大することになったため、日本も新たな負担を求められることになったのである。戦後、60年以上が経過し、もはや支援対象者はほとんどいなくなったはずだ。“理由なき支援”が続く背景は…。(喜多由浩)

 韓国・ソウルから電車で約1時間の安山市に、サハリンからの永住帰国者約1000人が住む「故郷の村」のアパート群がある。2000年に日本が建設費約27億円を出して造った(土地代・維持費は韓国側が負担)施設だ。

 バス・トイレ付きの2LDK。家賃は無料、生活費として1世帯あたり日本円にして約10万円が韓国側から支給されるから、ぜいたくさえしなければ生活に心配はない。

 ほかに、病弱者を対象とした療養院もあり、建設費はもちろんヘルパー代まで日本が出している。これらは平成7年、周辺国への「謝罪」に熱心だった村山内閣時に決定されたものだ。

 日本の支援はこれだけではない。日韓の赤十字が運営する共同事業体に拠出する形で、▽永住帰国はしないが、韓国への一時帰国を希望する人たちのサハリンからの往復渡航費と滞在費を負担(今年3月までに延べ1万6146人が一時帰国)▽サハリンに残る「韓国人」のための文化センター建設(04年竣工(しゅんこう)、総工費約5億円)−など、相手方から求められるまま、至れりつくせりの支援が行われてきた。
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 だが昨年秋、韓国側は「まだサハリンには韓国への永住希望者が3000人以上も残っている。今年夏以降、数百人単位で順次、帰国させたい」として、日本側に新たな支援を求めてきた。

 日本が建てた永住帰国者用の施設にはもう空きがない。ついては、別の公営住宅などを借りるからその家賃を日本側で負担してほしいという話である。

 さすがにそれは拒んだものの、結局、サハリンからの渡航費などは日本側で支援することになった。それが冒頭に挙げた約3億円だ。

 そもそも、戦時中に労働者としてサハリンに渡ったのであれば80代、90代になっているはず。戦後60年以上たっているのにいまだに「支援対象者」が絶えないのは、支援者の条件が単に、「終戦前から引き続きサハリンに居住している『韓国人』」などとなっているからだ。

 この条件なら終戦時に1歳の幼児だったとしても支援対象になるし、日本とのかかわりも問われない。実際、現在の対象者の多くはサハリン生まれの2世たちである。戦後、北朝鮮から派遣労働者としてサハリンに渡った人など、「日本とは何の関係もない人」まで、支援を受けていることが分かっている。
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 戦時中、朝鮮半島からサハリンへ行った労働者は企業の高い外地手当にひかれて、自ら海を渡った人が多かった。しかも、彼らが戦後、帰国できなかったのは、当時のソ連北朝鮮に配慮して国交のない韓国への帰国を認めなかったからだ。だから「日本に法的責任がない」という政府の主張は間違っていない。

 百歩譲って、アジアの大国としての「人道的支援」は認めるとしても、すでに使命は十分に果たしたはずである。それなのに、支援を打ち切るという話はどこからも聞こえてこない。

 支援事業を行う日赤国際部は、「日本政府としては各事業の効果や必要性等を入念に精査の上、人道的観点から現実的な支援を策定しているものと承知している」とコメント。外務省関係者からは、「この程度(の額)で済むのなら…」と本音も漏れてくる。

 だがそういう「事なかれ主義」が歴史問題で日本を苦境に追い込み、竹島慰安婦問題で譲歩を余儀なくされたことを忘れてはならない。
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【用語解説】サハリン残留韓国人問題
 戦時中、日本統治時代の朝鮮半島から企業の募集などで樺太(現・ロシア領サハリン)へ渡った韓国人が、戦後にソ連(当時)の方針で出国が認められず、数十年間にわたってサハリン残留を余儀なくされた。日本の民間人の運動がきっかけとなって、1980年代半ば以降、日本を中継地とした一時帰国、さらには韓国への永住帰国が実現した。日本政府は一貫して「法的責任はない」と主張してきたが、日本の一部政党・勢力が「日本が強制連行した上、韓国人だけを置き去りにした」などと、事実無根のプロパガンダを繰り返したために、日本政府は帰国事業などへの人道的支援に乗り出さざるを得なくなり、戦後60年以上たった現在も支援が続いている。
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/politics/diplomacy/55425/

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