沖縄戦集団自決、「日本軍の命令」に意見
特集:06年度教科書検定 沖縄戦集団自決、「日本軍の命令」に意見 研究者から賛否
沖縄戦での集団自決を巡る検定結果「日本軍の強制は明らかとは言い切れない」。主として高校2年生以上が使用する06年度教科書検定で、沖縄の集団自決における日本軍の強制・命令について新たな検定意見が示された。研究者らからは賛否両論の声が上がり、歴史認識に論議がある問題をどう教科書に取り入れるか、その難しさを浮き彫りにした形だ。一方、2順目を迎えた「発展的な学習内容」は記載件数、割合が増加。個々の生徒や学校の実情に応じた活用法が学校現場に問われている。【高山純二、永井大介】
沖縄の集団自決への新たな検定意見は、一つの民事訴訟が大きなきっかけになった。
沖縄・座間味島で集団自決を命令したとされる海上挺進(ていしん)隊第一戦隊長の梅沢裕・元少佐(90)らが05年8月、書物の誤った記載で名誉を傷つけられたなどとして、岩波書店と作家の大江健三郎氏を相手に出版差し止めと計2000万円の損害賠償などを求める訴えを大阪地裁に起こした。
訴状などによると、大江氏の著書「沖縄ノート」(岩波書店)などでは「梅沢少佐が自決命令を出した」などと記述。これに対し、梅沢元少佐は「自決を命令したことはなく、到底納得できない」と訴えた。係争中にもかかわらず、文部科学省は「提訴は一つの契機」と数少ない生き残りの証言を重視し、学説や出版物の再調査を行った。
この結果、集団自決への考え方を転換。文科省は根拠とした出版物に住民から聞き取り調査をした「ある神話の背景−沖縄・渡嘉敷島の集団自決」(73年、曽野綾子著)と、座間味島で生き残った母の遺言をまとめた「母の遺したもの 沖縄・座間味島『集団自決』の新しい証言」(00年、宮城晴美著)を挙げた。両著には日本軍の命令を疑問視する証言も記載されている。
教科用図書検定調査審議会では、今回の方針転換に否定的な意見は出なかったというものの、一部学者は「ここ最近は新しい研究と言えるものはなく、なぜ今(見解を)変えるのか。政治的な理由しか背景にありえない」と首をひねる。
記者会見では「削除するのではなく、両論併記にすべきだったのではないか」と質問も出た。これに対し、文科省は「学説状況を踏まえると、(両論では)誤解される」などと述べ、あくまで強制の削除にこだわった。外部団体からの削除要求はなかったという。
文科省は今後、教科書会社に今回の検定意見を情報提供し、出版済みの教科書を訂正するかどうか、教科書会社の判断を促す方針。今回修正した教科書会社には「修正すると、住民がなぜ自決したかがわかりづらい」と指摘する声もある。
◇断定するのは、いかがなものか−−文部科学省の見解
従来は「日本軍の命令」説が多数だった。沖縄返還(72年)前後から疑念や異説が出ており、05年は座間味島の集団自決を命令したとされる元日本軍少佐が裁判で命令を否定するなど、異説を補強する状況が出てきた。最近は、命令の有無よりも住民が自決を受け入れた精神状態に考察を加える学説が多い。極限的な状態に置かれるなどさまざまな状況が絡まって、自決に追い込まれたとも指摘される。「軍の命令」と断定するのはいかがなものか。
◇従来の成果を無視−−林博史・関東学院大教授(戦争論、平和学)の話
渡嘉敷島や座間味島での集団自決で、問題なのは当日の軍命の有無ではなく、自決前から日本軍が「捕虜になるなら自決しろ」と繰り返し、しかも手りゅう弾を住民に配っていた事実だ。その中で集団自決が起こるわけで、日本軍に強いられたものである。文科省の見解は、誰が住民を追い詰めたのかをあいまいにすることによって、日本軍の加害性を否定している。従来の研究成果を無視した暴論としか言いようがない。
◇新解釈を反映した−−八木秀次・高崎経済大教授(憲法学)の話
(『沖縄ノート』の記述を巡る訴訟で)大阪地裁での梅沢裕元少佐の「軍の命令はなかった。当時は、軍の命令があったことにすれば、国からの補償を住民が得られるため、私一人が悪者になった」などとする陳述が、沖縄での集団自決の新解釈となっており、文科省も陳述を反映させたのだろう。集団自決は確かにあったが、日本軍の命令があったか否かについて新たな解釈が出たので、(これまでの記述を)直すというだけで、そこまで大きな話ではないと思う。
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/edu/wadai/archive/news/2007/03/20070331ddm010040204000c.html
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