松下昇への接近

 旧 湾曲していく日常

軍や官憲によるいわゆる強制連行

(1)まず

一・1 「定義が変わったことを前提に」と安倍首相は発言しているが、何の定義が、いつ、どこで、どのように変わった事実があるのか。変わった理由は何か。具体的に明らかにされたい。(辻元)

この質問に答えていない。定義は安倍首相の脳内で「変わった」もののようだ。

また、同日の調査結果の発表までに政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかったところである。(総理大臣)

「軍や官憲によるいわゆる強制連行」というのは安倍発言で初登場のカテゴリーであると。
(平成五年八月四日)以降、調査は行っていない。
(2)

一・5 安倍首相は、「決議案」のどの部分が、どのように「客観的な事実に基づいていない」と判断しているのか。文言ごとにすべて明らかにされたい。また政府は、指摘部分以外はすべて「客観的な事実に基づいて」いるという認識でよいか。(辻元)

が、全般的に、慰安婦問題に関する事実関係、特に、慰安婦問題に対する日本政府の取組に対して正しい理解がされていないと考えている。(総理大臣)

後者、日本政府の取組については「謝罪しているのに謝罪が足りないとか言うな」と言いたいのだろう。ここでは了解しておく。*1
それ以外の「慰安婦問題に関する事実関係」とは当然、1945年以前の歴史的事実をどう確定するかという問題になる。米国議会下院で決議案が通った場合、日本政府はそれに文句を付けるということになるだろう、この答弁書の立場からは。「反省」という題目だけは掲げながら歴史的事実の確定について争う。やっかいな問題を安倍政権は背負い込んだ。
(3)
「軍や官憲によるいわゆる強制連行」に戻る。
大沼安史さんが翻訳してくださったジャン・ラフ・オヘルンさんの証言によれば、彼女は「スマラン慰安所事件」の当事者である。
http://onuma.cocolog-nifty.com/blog1/2007/02/for_the_record_c3ca.html
http://d.hatena.ne.jp/noharra/comment?date=20070314#cにも書いたとおり、
 これは収容所から兵隊が直接連れて行ったケースである。安倍首相の言う「官憲が家に押し入って、人さらいのごとく連れて行く」ケースとは、おそらく日常生活をしている場所から官憲(兵士を含む)が直接強制的に連行するといったケースのことであろう。であればこの場合は、そのケースに該当していると思うが如何だろう?
オヘルンさんたちの証言への反応という文脈で、安倍首相は「狭義の強制性を「官憲が家に押し入って、人さらいのごとく連れて行く」行為と定義し、「慰安婦狩りのような官憲による強制連行的なものがあったと証明する証言はない」と繰り返した。」と発言しました。これが不適切であることは明らかです。

>>1件だけ、ジャワ島における「スラマン事件」があったが、これは直ちに処分されており、むしろ軍による強制連行がなかったことを示すものである。(日本の前途と歴史教育を考える会)
http://d.hatena.ne.jp/noharra/20070310#p4
と(日本の前途と歴史教育を考える会)は言っている。
このようにオヘルンさんについては「事実は認めるが・・・」と応答するしかないのに、総理大臣は公文書で、日本政府の調査した資料には「軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかった」と断言してしまった。これは日本の国益を損なう大チョンボである。

*1:突っ込む余地はもちろんある