松下昇への接近

 旧 湾曲していく日常

エレクトラ・東条由布子

 ソポクレスの「エレクトラ」という劇(松平千秋訳)を読んでみた。文庫本で80頁だが、構成が単純で分かりやすくすぐ読めます。isbn:4480020128
 エレクトラアガメムノンの娘、その妹クリュソテミス、弟オレステスアガメムノンはその妻クリュタイメストラアイギストスに殺され、アイギストスは家長に収まっている。幼かったオレステスは殺されるのを恐れてお守役が連れて逃げている。
 エレクトラは歯に絹を着せず、母たちをストレートに批判するので危ぶまれている。ここでわたしたちはすぐアンティゴネとの共通点に気付く。男性兄弟への愛が非常に大きな比重を占める点も共通する。*1
 コロスというのは群衆(街の人たち)の声だ。これを読んでいてふと、コロスをヤスクニ神社の多数の死者たちの声と置き換えたらどうか、という発想がやって来た。東条由布子東条英機の孫ですが*2精神分析的には父の娘(エレクトラコンプレックス)と言えると思う。靖国の死者たちの多くは東条の命令の元に戦い死んでいった。東条が戦犯であると否定されることは、戦争の大義を否定されることで靖国の死者たちが我慢できることではない。演劇エレクトラの筋書きを踏襲するならば、父への思いという私情を貫くことによって、エレクトラ東条由布子東条英機を否定せず大東亜戦争肯定という大義を回復した日本を復活させることができる。しかしそれだとわたしの思想と合わないのでどうしたものか。ヤスクニというコロスの動向が肝心だ。靖国の死者たちは一面では、東条の無謀な戦争開始、食糧補給もない作戦計画の犠牲者である。コロスが分裂し互いに罵り合うみたいな劇を作ってみると面白いかもしれない。(ちなみに、アイギストスアメリカ、クリュタイメストラ裕仁??)

*1:吉本隆明の対幻想論。

*2:わたしはほんとはよく知らないのだが。