松下昇への接近

 旧 湾曲していく日常

未来的自由は〈民間〉にある

劉暁波は「未来の自由な中国は民間にあり」と言っている。*1


民間という言葉の意味が中国と日本では違う。中国では社会全体に共産党のネットワークがくまなく張り巡らされ、そこの情報の流れが権力的決定となって社会を規定する。民主主義国家では政府(統治機構)は社会の一部でしかないが、中国では社会全体を共産党が覆っている。


どんな社会でも矛盾は溢れているわけで、一つの党がそれらすべてを解決しうるし、しなければならないという考え方は無理があります。多元的な社会、他者(他文化)との共存とは自分が解決し得ない矛盾の存在を認めるということです。一つの党がそれらすべてを解決しうるという思想はむしろマルクスより儒教に由来する。


中国語圏twitter*2では、10/7から、広西チワン族自治区北海市の白虎頭村が、武装警官に包囲され、家屋の取り壊しが行われている状況について、ツイッター実況が行われ注目を集めていました。


事件の発端はそもそもこういう感じ、みたいだ。

http://kinbricksnow.com/archives/51488004.html
広西チワン族自治区北海市白虎頭村は美しい銀灘風景区の中にある。村民たちは風景区内での土地レンタルやその他サービス業に従事し、静かで豊かな暮らしを送ってきた。(略)
2006年から2007年にかけ、白虎頭村の元共産党村民委員会主任の馮坤は、他の村民の同意を得ずして、土地売却文書にサイン。白虎頭村の土地700ムー(約46ヘクタール)あまりを北海市土地備蓄センターに売却し商業施設を建設することで合意した。これを知った村民は強く反発。2008年8月に新たに選出された村民委員会の許坤主任を中心に、自分たちの権利擁護の道を探った。

広西チワン族自治区北海市。銀灘公園脇にある白虎頭村とはそもそもどこか?というと、次のブログにグーグルの伸縮自在の地図が貼ってある。地図から勝手に読み取ったイメージではすごく良いところ!みたいだ。
http://kinbricksnow.com/archives/51487794.html 

でchinanewd21さんはこのブログにこう書いている。

今日(7日)の昼間ぐらいからでしょうか。中国語ツイッターでは「白虎頭村」に関するツイートがすごい勢いで流れ出しました。広西チワン族自治区北海市銀海区に属する村ですが、土地収用をめぐって地方政府との対立が続いてきました。


で、当局は本日中に武装警官の突入、立ち退きを拒否する村民の排除、家の取り壊しを決行する予定とのこと。

私たちの世代に分かり易い比喩では三里塚闘争のような「強制収容」が、7日の日から行われている、と。


だが、三里塚では支援者の学生が数万人もいたが、白虎頭村にはいない。しかしその代わりにtwitterで実況中継が行われ、多くの中国人がツイートの拡散に協力したようだ。
その中で、天萌星さんという方が「日本人にもこうした事情を知ってもらいたい」と実況の日本語訳を始めた。天萌星さんはなんと中国在住の高校生!
それをchinanews21 さんが読みやすくまとめたのが、下記。
http://togetter.com/li/57314
http://togetter.com/li/57534

もう始まった、北海市白虎頭村の暴力拆遷。武装警察と消防士が強引的に突入開始。


「北海市白虎頭村」家の持ち主である村人・馮文建さんを確保、もうすぐ拆遷が始まる

ツイートはこんな感じで始まる。




この写真では住民たちはまったくの丸腰で、なのに果敢に石を投げようとしている。
「「北海市白虎頭村」白虎頭村で行われた国内初の「反拆遷」演習。写真は村人が拆遷しにきた武装警察に石を投げて追い出す様子。 RT @L5d: 白虎头村民拿石头褰强拆的迷彩服」 これは今回ではなくもっと前の出来事か?




こちらの写真は一挙に緊迫感が増す。

このおじいさん応援。 RT @chinanews21: 【写真】押し寄せる武装警官を前に一服するおじいさん。死に装束をまとっている。傍らにはガスボンベ。うちの家を壊すなら、自爆してやるという悲壮な覚悟です……
http://togetter.com/li/57534

優雅に一服しているかに見えますが、実は自分の体が跡形もなく飛び散るほどの燃料を側においていつでも点火できるというパフォーマンスでもある!


リンク先の二つを読んでもらったら良いので、説明はしません。


どんな社会でもかなり深刻な葛藤は起こる。日本のように、不服申し立てや裁判を受ける権利など全ての権利が形式的には整っているかのような社会もある。それでもそうした権利は行使できずに泣き寝入りする場合が多いのだ。ましてそうした機会が保証されてない、何らかの方法はあっても裁判所などが機能していない国家、地域では、非道が白昼行われていて、周辺住民がそれに気づいてもそれだけで、マスコミの報道等でそれが広い範囲に知られることがないのでそれっきりになってしまう。

「中国の現実」華春輝さんのツイット:白虎頭村の取り壊しは話題となったけど、これ以上の暴力な取り壊しもたくさんいると、知ってる人はいますか?無錫、蘇州、常州、上海みたいな経済発達の地区もこのような取り壊しがたくさんある。私たちは一体何ができるの? RT @wxhch

中国ではもっと暴力的な取り壊しもたくさんある、らしい。
とにかく白虎頭村については、twitterで話題になり、それをある人が日本語に訳して、一部の日本人にも伝わった。
そして、たぶん、政権を転覆しようとか政治的に先鋭であるとかいった明確な政治思想を持っているわけではない市民が、市民としての常識によってこのような努力を払い、小さくとも中国や日本のマスコミがなすべきなのになしえなかったことをした。
そのことを知って私は嬉しかった。


そして、劉暁波の言う、未来的自由は〈民間〉にある、とはまさにこのような緩やかな連帯のことを言うのだろう、と思ったのだ。
劉暁波の『未来的自由中国在民間』は翻訳されていない。ただ、「天安門事件から「08憲章」へ」*3の第3部が「希望は民衆の自治・共生にあり」となっている。明日はこの部分をめくってみて、わたしの〈民間〉イメージが、劉暁波が語っているものに近いかどうか、検証してみよう。


未来的自由は天萌星 こと@amamoe にある
というのは半ば冗談ですが、半分は本気です。

*1:2005年11月、劉暁波の新著『未来的自由中国在民間』がワシントンに本部を置く労改基金会から出版された。及川の1

*2:国家的firewallを技術を駆使して乗り越えないと使えない

*3:isbn:97848994347212 C0030