松下昇への接近

 旧 湾曲していく日常

平岡正明さんがなくなった

大田竜に続いて、と言えなくもないが、まあとにかく亡くなってしまった。
60年安保直後の〈自立学校〉において、まだ紅顔の美少年だった平岡が、部屋の中を火のついたたいまつかなんか持って走り回っていた、というエピソードは有名。
お調子もの、といった印象を持っている人もいるだろうが、けっしてそれだけの人ではなかった。というより次のような文章を読めば、彼は自らの自立*1的なリズム感を持った人で、決してまわりが浮かれているからといって自らを見失うことなどなかったのだ(たぶん)。

 その前にひとことだけ、わがイデオローグたちのここ二、三ヶ月の早過ぎるテンポに注意しろ、と言っておきたい。調子がよすぎる。総合雑誌の、占拠派学生を支持する基調が、占拠派のビラを好意的に引用していることと社会民主主義者批判を含んでいることがあるから諸家の最近の左急旋回を支持できるが、もし俺が戦中派なら、そこに翼賛の文体を見つけただろうと思う。俺の経験では警職法闘争の文体に似ている。六〇年代左翼はそのくらいの警戒心は発達させてきた。血がブツブツ騒いでいて、叫びだしたいのだが、数十万単位を一部隊とし、数百万単位を一梯団とする人民の深部に持続低音がききとれるようになり、そこにあきらかに回転が見てとれるまでは、苦虫を噛みつぶしたような顔をして自分の心臓のビートを計っているといった、オルグの文体がすくない。まさにその意味で「革命の“砦”の敗北と小利」の松田政男はまたーーある意味では占拠派学生の方向を人民の歴史の方向とする井上清の論文もーー抜群である。
 こういうことだ。日本の陰謀家たちに欠如しているのはリズム感である。激しく現象するもののテンポ、自分のテンポ、民衆のド真中からくるテンポを聴きわけ、相互の関連を自在の複合リズムとして叩きわけていくドラマーたる陰謀家がすくない。革命論の世界の富樫雅彦エルヴィン・ジョーンズがいない。(略)
(初出 69年2月14日「現代詩手帳」)
p36 平岡正明「ジャズより他に神はなし」三一書房

 突然こんな文章を引用されても読者の方は意味が分からないでしょうね。あの、1969年の初めにほんの一時期だけ、総合雑誌すらもが(後にいわれる)「極左」の側に急にすりよって来たかのような雰囲気があった。若い学生などはそうした雰囲気に飲み込まれ跳ね上がっていったわけですが、最も若い(60年)安保世代の平岡は、逆にそうした「調子がよすぎる」空気に敏感に危機感を感じとりながら、それでいてしっかりアジテートしている。
 こうした芸と華のあるアジテーターはめったにいません。

評論家の平岡正明氏死去

 平岡 正明氏(ひらおか・まさあき=評論家)9日午前2時50分、脳こうそくのため横浜市の病院で死去、68歳。東京都文京区出身。自宅は横浜市保土ヶ谷区仏向町1338の25。葬儀は13日午前11時から同市西区元久保町3の13の一休庵久保山式場で。喪主は妻秀子(ひでこ)さん。
 ジャズや歌謡曲などの音楽、映画、文学と幅広い分野で評論活動を展開した。主な著書に「山口百恵は菩薩である」「筒井康隆はこう読め」「マイルス・デヴィスの芸術」「シュルレアリスム落語宣言」など。 (2009/07/09-13:27)
http://www.jiji.com/jc/c?g=obt_30&k=2009070900461


平岡正明ってはてなでは人気あるんだ! びっくり。

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7/20 20時半現在

*1:「自立」は当時の吉本隆明のキーワード。