松下昇への接近

 旧 湾曲していく日常

恐いのは、他人の指より自分の指

下町の路地の親たちは、「他人さまに迷惑はかけるな」と子供たちに教えたが、「うしろ指はさされるな」と言うような固いしつけはしなかった。
〔…〕
(恐いのは、他人の指より自分の指──われながら情ない、と思うようなことだけは決して、してはいけない)
 それが、粋な生きかた、だと私は娘のころから思いこんでいた。
沢村貞子『わたしの台所』(1981)光文社文庫
http://d.hatena.ne.jp/chinobox/20071014/1192291987

沢村貞子かっこいい!


思うにひとが生きていくためには自恃(じじ)が必要だ。金銭とそれにつながる欲望が存在に占める比重が圧倒的に高くなった現在、自己というものを辛うじてでも保持するのは容易なことではない。華々しく死にたいと願う中二病的な幼稚さはじつはわれわれのすぐ隣にあるのではないか。
親の仇よりも怖いものはお金だよ、と教えた庶民が裏側で持っていた不敵さをわたしたちはどこからか回復しなければならない。