まなざしをつねに休める稜線に行倒れたるけものおるべし
前 登志夫
(20060225朝日新聞夕刊)「世捨人」より
作者は山勝ちの地域に住む高齢の歌人。ゆっくりと歩きながら目の前の山の稜線をそのつど確認することで疲れを癒している。稜線という言葉の鋭角性から自分の遠くない死を思い浮かべる。なだらかな稜線は数十年絶えず生き続けたその果て、のメタファーでもありうる。「人間の幸福とは何、ゆつくりと山に生きたり老いふかめつつ」老いたふりをしつつも、というか、むしろ本質的に「老い」とは強度であり過激性ではないか、という問いにすら導かれる。