松下昇への接近

 旧 湾曲していく日常

萌え上がる物

次國椎如浮脂而。久羅下那洲多陀用幣琉之時【琉字以上十字以音】如葦牙因萌騰之物而。成神名。宇摩志阿斯訶備比古遲神【此神名以音】
天之常立神【訓常云登許訓立云多知】此二柱神亦獨神成坐而。隱身也。
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かの始めて成れる一つの物、浮き脂の如く、虚空(オホソラ)に漂蕩(ただよ)えるなり。さて其の物の中より、葦牙(あしかび)のごとく萌上がる物あり。これ天となるべき物也。かくてその天と成るべき物は萌上がり了(おわ)りて、其の跡に残れるが、堅まりて、地(つち)とは成る也。されど此の時は、いまだ海と国土と分かちなどもなく、ただ混(ひと)つにて、ふわふわとただよいてある也。(三大考)*1

第3図。宇宙のなかにただ一つ浮き脂みたいなものができて、葦の芽のようにぐいーんと萌え上がるものがあった。上の方向への巨大なベクトル。宣長によれば、あしかびは「葦のかつがつ生(お)初(そ)めたるを云う名なり」*2これを中庸は「その天と成るべき物」とみなすわけですが、まあそんなことは古事記には全然書いてないのですけどね。宣長には「さて此は天(あめ)の始めにて、如此萌え騰りて終(つい)に天とは成れるなり」*3とある。これによって天と地が分かれたと。
 そもそも「三大」とは何か、というと、天、地、泉である。このうち二つがここで出来た。あと泉、とはいずみではなく黄泉(よみ)のこと。上に天が出来、下に垂れ下る物もあって黄泉になった(はずだ)と次の段で説明がある。

*1:p258 日本思想体系 50

*2:古事記伝1・p189

*3:同上p190