「核の脅威」よりも 「独裁の脅威」を重視せよ
北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会のサイトで、三浦小太郎さんが次のように書いている。
第2次世界大戦後、世界は少なくとも大規模な核戦争も世界戦争も体験せずに来た。これ自体は喜ぶべきことである。しかし、その「平和」の蔭で、スターリン、毛沢東、ポルポト、そして金日成・正日らの独裁者は、民衆を虐殺し続けてきたのだ。その数は諸説あろうが、少なくとも北朝鮮において行われてきたのは、独裁政権により民衆への「内戦」であり、抵抗する可能性のある人びとは全て殺されてきたと言っても過言ではあるまい。
戦争の脅威や被害よりも、核の恐怖よりも、さらに恐ろしいのは独裁政権により民衆への「脅威」ではなく「形を変えた戦争」であり「国内収容所」における虐殺である。この現実に眼を閉ざし、同胞の拉致事件よりも、北朝鮮独裁政権による民衆虐殺よりも、また「テロ支援国家」中国の脱北者の強制送還よりも、核問題を優先すべきだと言う日本国政治家の姿勢は、戦後日本の一国平和主義の最悪の堕落した表れと見なすほかはない(2009年5月11日)。
http://hrnk.trycomp.net/news.php?eid=00098
日本人ならたった一人殺されたかどうかで大騒ぎするのに、国境を一歩越えた北朝鮮人民なら何十万、何百万死んでも全く知らん顔というのが、日本人の標準のようだ。しかし、日本人といっても海外に出かける人もいる。
例えば斉藤博子さんの場合は次のようだ。
斎藤さんは1941年に生まれ、1961年に、夫で在日朝鮮人の金正二さん一家と共に、北朝鮮帰国事業で北に向った。斉藤さん自身は北朝鮮のことは何も分からず、夫一家が朝鮮総連の「北朝鮮は地上の楽園」という宣伝を信じ込んでの結果だった。
(略)
1965年からは、今までは15日間分くれていた配給が、13日分にまず減った。日が経つにつれて生活は困窮し、日本から持ってきた品物はほとんど売ってしまった。そして、ただ貧しいだけではなく、公開処刑を強制的に見せられ、言論の自由どころか北朝鮮への不満を述べることも出来ない恐怖政治下に置かれ、3年たっても里帰りが出来る可能性は皆無だった。1994年からは、街中に餓死者が溢れ始めた。飢えた人が人肉を食べていると言う噂も流れた。もともと少なかった配給は完全に停止し、工場も稼動しなくなった。長女弥生はこの時期、僅かな銅線を盗んで売ろうとし、見つかって逮捕され、厳しい取調べを受けて獄中で亡くなった。斉藤さんはこのままでは北朝鮮で生き延びることは出来ないと判断し、一家を助ける為に少しでもお金を稼ごうと脱北したのだ。
http://hrnk.trycomp.net/news.php?eid=00095
日本人であることは(ある場合には)何も保証してくれない。したがって世界全体の(特に東アジア地域の)大きな人権侵害には抗議し同様なことが起こりつづけないよう監視していかなければならない。
従軍慰安婦問題を考えることが、今現在起こっている大きな人権侵害から目を逸すことにつながっている、などということが万一あるならひどくアンバランスで馬鹿げたことだ。
VAWW・NETの2000年女性国際戦犯法廷を私は支持するものだ。しかし過去に遡って「ヒロヒト有罪」を言うなら、現在の「金正日有罪?」はどうなるのか。少なくとも疑問を提出する権利は認められるべきだ。*1その上で、<真相を徹底的に調査>をすべきであるし、<すべての被害者に対して正式な謝罪を>なすべきである。*2 そうではないと、「ヒロヒト有罪」を言う権利は失われるのではなはだまずいと私は考えた。*3
「金正日有罪?」問題は簡単な問題に過ぎない。イエス・キリストの「貧しい者、虐げられた者の側に立ちなさい」という教えは、むしろ難しいとされる問題を簡単な問題だと見抜くときに役立つ。今年ガザで殺された人たちに対しそれを殺した側が悪であると理解すべきであるし、finalventのようにぐずぐずいいたがる奴はクズである。それと同じように、北朝鮮に巨大収容所があるというのが事実であるのであれば、そこで苦しんでいる人民は悪ではなく金正日が悪であるのは当然だ。
国境を越えた正義に少なくない関心をもっているはずの、id:lmnopqrstuさんがなぜそれをごまかそうとするのか理解できない。
そして、4月28日、中国の青島では30人余りの脱北者(北朝鮮難民)が、韓国を目指そうとして中国政府により不当逮捕された。しかも、そのうち7名ほどは幼児や児童だという。難民条約に加盟していながら、送還されれば厳しい拷問や強制労働が待ちうけ、仮に運良く生きのびても生活基盤は破壊されることは、脱北者の様々な証言で明らかであると言うのに、中国政府は彼らを北朝鮮に送り返すのだ。これは事実上の「テロ支援国家」の行動である。
http://hrnk.trycomp.net/news.php?eid=00098
日本共産党も
「脱北者」問題は、北朝鮮の内政にかかわる問題であり、それに口を突っ込むことは内政干渉にあたるとしている。犯罪的である。
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik4/2006-06-23/2006062302_05_0.html
*1:この問題については実際問題ブログ界でほとんど論じられていない!
*2:http://d.hatena.ne.jp/noharra/20050125#p3
*3:VAWW・NETにもその旨メール送付した。
金正日体制を転換させる主体形成を抑圧しているのは
誰なのか?
ただ同時に、この国が現在の体制においてあり続けることを、自分が生きていくうえで必要不可欠だと考えている人たちがこの国にどのぐらい居るのか、われわれには今のところ知りようがない。
この国の体制に外から圧力を加えていった場合に、この人たちの生にどれだけの影響があるのか、そしてそれに代わるものをわれわれは本当に提供できるのかということを考えることは、是非とも必要なことである。
http://d.hatena.ne.jp/Arisan/20090514/p2
それでは、お前は収容所の何百万や、飢餓や貧困に苦しむ人たちを見捨てるのかと言われれば、今のところ、うなづくしかない。(同上)
Arisanさんの論理展開はおかしい。
北朝鮮国家を批判することを北朝鮮国家を破壊することにまで拡大して、遠慮せざるをえないとしている。
ガザ数百万人民の暮らしは、イスラエルの経済活動なしにはなりたたない。だからといってわたしたちはイスラエル国家批判をためらったりしない。北朝鮮人民と北朝鮮国家の関係もそれと同じである。
B われわれが、朝鮮の人々の多くが精神的に依拠しているであろう(これも、どの程度かは仮定だ)体制と国家のあり方を否定し、それを奪うという暴力。
http://d.hatena.ne.jp/Arisan/20090515/p1
すなわち1945年の日本帝国本国人の「精神的依拠」と同程度である、と判断できる。それを奪うという暴力はなされてはならなかったというなら、狭い意味の国体護持にもっとこだわるべきだったとの結論になる。
ぼくには、この力学のなかで体制が打倒された後に生じる、あの国の現実が、多くの民衆にとって、現在よりもマシなものであるとは、ほとんど考えられないのだ。
北朝鮮の現体制の維持を望んでいるのはわずか4.7パーセントで、93.7パーセントは韓国との統一を望んでいる。*1
http://www.asiavoice.net/nkorea/2009/05/post_290.html
もちろん日本や韓国社会にも大きな大きすぎる矛盾は多くある。それでも上記の数字はやはり圧倒的説得力を持っているのではないだろうか。
パレスチナ問題と違って、北朝鮮国家が消滅してもそのまま韓国に併合されればよいので大きな国際混乱は起こらない。*2 *3ただ中国とロシアが、韓国と国境を接することを是が非でも阻止したいと考えているだけだ。Arisanさんは志に反し大国の利害を擁護しているだけである。
「日々、暮らしている民衆」ではなく
しかし、Bの暴力の問題という風に問題を立てるという道筋がどうしても想像できない。どうしてそこで問題にされるのが、「日々、暮らしている民衆」ではなく、「この体制に精神的に依拠している多くの人びと」でなければならないのか。そのあたりがどうもぼくの琴線に触れたのだ。
http://tu-ta.at.webry.info/200905/article_13.html
(おとなり日記 として)わたしの乱暴な文章と違い丁寧に書いておられるが共通点もある。(5/17追記)