すでに各紙で報道されたとおり,最高裁判所第二小法廷(中川了滋裁判長)は1月15日,西松建設を被告とした広島での中国人強制連行訴訟について,双方の意見を聴くための弁論を3月16日に開廷するとの通知を行いました。
この訴訟では,二審の広島高等裁判所が中国人原告らの請求を認める判決を下しており,敗訴した西松建設側が最高裁に上告していたものです。
このような最高裁の弁論は,一般的には高裁の判決を維持する場合(つまり中国人被害者を勝たせる場合)には開く必要がないのですが,最高裁はいわゆる「請求権放棄」の問題に限って西松建設側の上告を受理すると決定しました。「請求権放棄」とは,1972年の日中共同声明によって,中国人被害者の日本に対する損害賠償請求権が放棄されたのかどうかという問題のことです。すなわち最高裁は,日中戦争に起因するすべての損害賠償請求権が,この日中共同声明によって放棄されたとの判断を行う可能性があります。
第二小法廷には、劉連仁事件と強制連行東京第二次訴訟が係属し、また、「慰安婦」訴訟事件は第一小法廷で請求権問題が争点となっています。もし,最高裁によってこのような判断がなされてしまうと,これらの中国関係の戦後補償裁判にも重大な影響を及ぼします。731・南京・無差別爆撃訴訟,従軍「慰安婦」訴訟,劉連仁訴訟や全国の強制連行訴訟などについても「中国人被害者の請求権は放棄された」として一斉に請求棄却となるおそれがあります。
最高裁が判断するおそれのある解釈の誤り
最高裁が,日中共同声明によって請求権が放棄されたと判断する場合,次のようなものになるおそれがあります。
すなわち,まず1952年に国民政府とのあいだで締結された「日華平和条約」が,中国国民の賠償請求権をも放棄していたとし,さらに,中華人民共和国政府と日本とのあいだで締結された1972年の「日中共同声明」においても,中華人民共和国政府による請求権の放棄が,国民政府による請求権の放棄よりも狭いということは考えられないから,中華人民共和国政府も国民の請求権を放棄したのだ,というものです。
しかしながら,このような解釈は明らかな誤りです。「日中共同声明」は,中国政府の戦争賠償の請求を放棄するとしているものの,中国国民の請求権を放棄するとの文言はありません。また,日中共同声明で中国国民の日本に対する賠償請求権が協議された事実すら存在せず,むしろ中国政府は1995年に銭外交部長が,「日中共同声明で放棄したのは国家の請求権であり,個人の請求権は放棄されていない」と発言しています。また,中国大使館のホームページにも「慰安婦」問題や強制連行,毒ガス被害などについて「遺留問題」と記載し,日中共同声明によっても解決されず,現在も残されている問題であることを認めているのです。そもそも,この程度の根拠によって中国国民の請求権が放棄されたと解釈するなど,乱暴もいいところです。
ご協力のお願い
このように,最高裁が行うおそれのある判断は明らかな間違いなのですが,それでも一旦出されてしまえば,全国の戦後補償裁判に大きな悪影響を与えます。私たちは,何としても最高裁のこうした無謀な判断を止めさせなくてはなりません。場合によっては外交問題にまで発展する可能性もあります。
そこで私たち弁護団は,緊急に対応を検討することとしました。
まずは,国際法学者や憲法学者の協力を得て,最高裁の考え方が誤りであることを理論的に訴えます。また,戦後補償裁判を担当している全国の弁護団に呼びかけて,共闘して最高裁の誤った判断を食い止める活動を行います。さらに,マスメディアや日本国内・中国国内の支援者らに呼びかけて,世論の力でも最高裁に圧力をかけていきたいと思っています。
そこで,私たちの戦後補償裁判を支援してくださるすべての方々に,今回の緊急の事情を理解していただき,ご協力をお願いすることにしました。今後の具体的活動については,その都度状況を睨みながら決定していくことになりますが,まずはこの緊急事態を多くの方々に知っていただき,各地でミニ集会や最高裁各小法廷宛のハガキ要請に取り組んで頂くようお願い致します。
支援の皆様方のご協力が今ほど必要なときはありません。皆さまに至急お知らせして,今後のご協力を強くお願いする次第です。
【要請先】
「慰安婦」第一次および第二次事件については,第一小法廷
強制連行・劉連仁事件,強制連行東京第二次事件については,第二小法廷
強制連行・福岡第一陣事件については,第三小法廷
ハガキ要請文面例 「個人請求権問題について慎重な判断を行え」
「中国側の意思を無視した判断は許されない」
「中国側は強制連行被害者の個人請求権は認めている」
中国人戦争被害賠償請求事件弁護団
団長 尾山 宏
団長代行 小野寺 利孝
幹事長 南 典男
連絡先 :東京都新宿区新宿1-6-5 シガラキビル9階
ピープルズ法律事務所
TEL 03(3354)2555 FAX 03(3354)9650*******************************************
弁護士 穂積 剛
ご協力のお願いの三段目。
「国際法学者や憲法学者の協力を得て,最高裁の考え方が誤り」は、
「国際法学者や憲法学者の協力を得て,このような考え方が誤り」とかに変える方がよいのではないか、と思う。
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